調剤薬局の経営改善計画の実務 ─ リスケ時のPL設計と人件費比率の評価

2026/5/28 14:22

報酬改定と収益計画

調剤薬局

この記事の想定読者と、書き手について

本記事は金融機関の融資担当者を主な想定読者としています。

取引先の調剤薬局からリスケジュール(返済条件変更)の申し入れを受けると、経営改善計画の提出を依頼することになります。しかし提出された計画のPL(損益計算書)がどの程度現実的なのかを判断するには調剤薬局のPL構造を理解する必要があります。

私は薬剤師として調剤の現場に立った後で中小企業診断士の資格を取りました。いまは認定経営革新等支援機関として調剤薬局の経営改善に関わっています。現場の肌感覚経営の数字の両方を見てきた立場から本記事を書きます。

なぜこの二つの視点が必要なのか。薬学部では配置基準や調剤報酬を制度として学びます。しかし人件費比率や労働分配率やリスケといった経営の数字を学ぶ機会はほとんどありません。だから現場に出た薬局経営者の多くは、計画書に出てくる数字の意味を金融機関と同じ目線で語れません。その通訳を担うのが私の役割だと考えています。

本記事では調剤薬局の経営改善計画におけるPLの各勘定科目について、この数字はどこまで動かせるのかを融資担当者の視点で解説します。特に人件費比率の評価については、下げることを検討すべき人件費下げると事業が壊れる人件費の見分け方を具体的に示します。

1. 調剤薬局のPL構造 ─ 各科目の特性と改善余地

調剤薬局のPLを構成する主要な勘定科目と各科目の改善余地を整理します。

PLの基本構造(月間処方箋1,000枚の門前薬局の例)

本例は処方箋1枚あたり約9,500円の門前薬局を想定しています。全国平均は約9,300円です。

勘定科目

月間金額(概算)

売上比

改善余地

売上高

950万円

100%

△(加算算定の最適化で改善可能)

薬剤仕入高

▲700万円

74%

▲(薬価差益は構造的に縮小。改善は不動在庫の処理が中心)

粗利益

250万円

26%

人件費

▲135万円

14%

▲(配置基準の制約あり。削減は困難)

家賃

▲20万円

2.1%

▲(固定費。交渉余地は小さい)

在庫廃棄損

▲2万円

0.2%

○(在庫管理改善で削減可能)

その他経費

▲33万円

3.5%

△(項目ごとに精査が必要)

営業利益

60万円

6.3%

※本例では減価償却費をその他経費に含めて簡略化しています。実態は月10〜15万円規模で別立てとなります。

人件費は売上比で14%です。しかし粗利益に対する比率である労働分配率で見ると135万円÷250万円=約54%になります。調剤薬局では売上に薬剤料の仕入が含まれるため、人件費は対売上ではなく労働分配率で評価するのが実務の基本です。

各科目の改善余地の意味

上記の改善余地を補足します。

  • ○(改善余地あり): 経営判断とオペレーション改善で比較的容易に効果が出る

  • △(限定的な改善余地): 改善は可能だが制約条件があり大幅な改善は困難

  • ▲(改善困難): 構造的な制約があり安易な削減は事業を毀損するリスク

融資担当者として最も重要な認識があります。それは調剤薬局のPLは大きく動かせる項目が少ないという点です。売上は公定価格に依存します。人件費は配置基準の制約を受けます。家賃は固定費です。改善余地が相対的に大きいのは加算算定の最適化(売上側)と在庫管理(費用側)に限られます。

担当先の調剤薬局の改善計画を、いちど思い浮かべてみてください。動かせない項目を動かす前提になっていないでしょうか。


📩 CTA ─ 取引先の調剤薬局から提出された経営改善計画のPL前提が妥当か判断したい方へ

調剤薬局の経営改善計画に記載されたPLが現実的な数字かを判断するには業界固有のPL構造を理解する必要があります。MKマネジメントは認定経営革新等支援機関として調剤薬局に特化した経営改善計画の策定に対応しています。計画のセカンドオピニオンも承ります。

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2. 売上高の前提をどう設定するか

売上高の構成

調剤薬局の売上高は以下のように分解できます。

売上高 = 処方箋枚数 × 1枚あたり単価

1枚あたり単価は技術料単価薬剤料単価に分かれます。

構成要素

内容

改善の方向性

処方箋枚数

門前医療機関の患者数に依存

薬局の努力だけでは増やしにくい

技術料単価

調剤基本料+各種加算+調製料+指導料

加算算定の最適化で改善可能

薬剤料単価

処方された薬の薬価合計

処方内容に依存。薬局ではコントロール不可

経営改善計画における売上前提のチェックポイント

①処方箋枚数の前提は楽観的でないか

計画に処方箋枚数を年5%増加させると書かれている場合はその根拠を確認してください。門前型薬局の処方箋枚数は門前医療機関の患者数に依存します。薬局の努力だけで増やすことは困難です。

処方箋枚数を増やす手段は以下に限られます。

手段

実現可能性

備考

門前医療機関の患者数増加

薬局ではコントロールできない

面対応(複数医療機関からの処方箋受付)

立地と営業力に依存

在宅業務の拡大

体制構築に6か月~1年が必要

経営改善計画では処方箋枚数は現状維持または微減を基本前提とすることが保守的かつ現実的です。増加を見込む場合は具体的な根拠が必要です。

②加算算定の改善による増収は実行可能か

加算算定の改善は調剤薬局の売上改善の最も有効な手段です。しかし加算を算定するには要件の充足が必要です。算定すると書くだけでは実行可能性が担保されません。

主要な加算の点数と年間増収の目安を早見表にまとめます。点数は2026年度(令和8年度)改定後の値です。

2026年度改定後 調剤薬局の主要加算 早見表(令和8年6月施行)
加算名(2026年改定後)点数月1,000枚薬局の年間増収目安算定のハードル対象薬局
地域支援・医薬品供給対応体制加算1(基礎)27点約324万円後発品使用割合85%以上+安定供給体制全区分の前提
地域支援・医薬品供給対応体制加算259点約708万円加算1+備蓄品目・在宅等の実績要件調剤基本料1の薬局
地域支援・医薬品供給対応体制加算367点約804万円加算2+より高い実績要件調剤基本料1の薬局の最上位
在宅薬学総合体制加算130点在宅患者数による在宅訪問 年48回以上在宅対応薬局(2024年の15点から倍増)

出典:厚生労働省 令和8年度調剤報酬改定(地域支援・医薬品供給対応体制加算 加算1〜5=27/59/67/37/59点)。後発医薬品調剤体制加算は2026年6月に廃止され後発品使用割合は加算1の基礎要件に統合。調剤基本料1以外の薬局は加算1・4(37点)・5(59点)を算定。増収目安は月1,000枚で受付1回算定とした機械的概算。

融資担当者としては、計画に記載された加算改善について算定要件を満たすための具体的なアクションプランと所要期間が書かれているかを確認してください。

③報酬改定リスクの感応度分析があるか

診療・調剤報酬は2年ごとに改定されます。5年間の計画期間中には2回程度の改定が到来します。保守シナリオ(主要点数5%引き下げ)でも返済原資が確保されるかを確認してください。

担当先の計画書に、次回改定を織り込んだ試算は付いていますか。付いていなければそこが最初の論点です。


3. 薬剤仕入高と粗利益の設計

薬剤仕入比率の基準

水準

薬剤仕入比率

評価

優良

68%以下

薬価差益の管理が良好

標準

68~75%

一般的な水準

要改善

75%超

薬価差益が小さいか在庫廃棄が多い

粗利益の改善余地

薬剤仕入比率の改善は以下の施策で実現できます。

施策

年間効果の目安

実行難度

在庫回転日数の改善(不動在庫の削減)

50~130万円

後発品の使用促進(薬価差益の改善)

数十万円

これらの施策で見込める改善は年間70〜170万円程度にとどまります。仕入比率そのものを大きく動かすことは難しい状況です。背景には3つの構造的要因があります。

第一に、医薬品卸の薄利化により仕入先集約や価格交渉での値引き余地は近年限定的です。第二に、薬価改定(毎年実施)により薬価差益は継続的に縮小しています。第三に、近年の社会情勢の不安定化により原薬と医薬品包材の輸送コストや調達リスクが上昇しています。公定薬価制度の下では物流費高騰分を販売価格に上乗せできないため、メーカーから卸を経て薬局への価格圧力は当面継続する見通しです。

融資担当者が注意すべき点

経営改善計画で粗利益率を3ポイント改善すると書かれている場合はその内訳を確認してください。粗利益率の改善は薬剤仕入比率の低下技術料収入の増加の2つの要因に分解されます。

  • 薬剤仕入比率の低下で改善 → 近年は卸の薄利化と社会情勢の不安定化に伴う原料調達コストの上昇により実現困難。在庫廃棄損の低減で粗利を守る程度が現実的

  • 技術料収入の増加で改善 → 加算算定の改善が主戦場(前セクション参照)

このように分解して各施策の実現可能性を個別に検証することが重要です。仕入比率の低下を1ポイント以上見込む計画は近年の業界実態と齟齬があるため確認が必要です。

4. 人件費比率の評価 ─ 下げることを検討すべき人件費と下げると壊れる人件費

本記事の最重要セクション

このセクションが本記事で最も重要な部分です。経営改善計画において人件費は最大のコスト項目です。そのため人件費を削減するというアクションプランが書かれることが多くなります。しかし調剤薬局では人件費の削減が事業を壊すリスクがあります。

人件費比率の基準(労働分配率=人件費÷粗利益)

調剤薬局の人件費は対売上ではなく粗利益に対する比率で評価します。

水準

労働分配率(対粗利)

評価

低い

48%以下

人員不足の可能性。配置基準ギリギリのリスク

適正

50~55%

標準的な水準

やや高い

55~58%

加算の取りこぼしか派遣依存の可能性

高い

58%超

構造的な問題がある

人件費の内訳を分解する

人件費を下げることを検討すべき部分と下げると壊れる部分に分解するには、まず人件費の内訳を把握する必要があります。

人件費の内訳

内容

削減の可否

①薬剤師の常勤給与

常勤薬剤師の給与・賞与

✕ 原則として削減不可

②薬剤師のパート給与

パート薬剤師の時給×勤務時間

△ 勤務時間の調整は可能だが配置基準に注意

③事務員の給与

事務員の給与・賞与

△ 最低限の人数は必要

④派遣薬剤師の費用

派遣会社への支払い

○ 常勤採用への切り替えで削減可能

⑤法定福利費

社会保険料の事業主負担

✕ 法定費用であり削減不可

⑥残業代

時間外労働の割増賃金

△ 業務効率化で削減は可能だが限度あり

⑦人材紹介手数料

退職に伴う補充採用時に発生

○ 離職率改善で抑制可能(改善策②参照)

下げるべき人件費の具体的な改善策

改善策①:派遣薬剤師から常勤採用への切り替え

派遣薬剤師の費用は薬局が派遣会社に支払う金額で見る必要があります。薬剤師本人が受け取る時給は3,000~4,500円程度です。しかし薬局の負担は派遣会社のマージンを含むため時給換算で4,500~6,000円が相場です。

一方の常勤薬剤師の負担は給与だけではありません。年収560万円の常勤薬剤師は法定福利費(社会保険料の事業主負担で給与の約15%)を加えると年間約644万円が薬局の負担額になります。時給換算では約3,200円です。

したがって薬局の負担額どうしで比較すると派遣は常勤より1時間あたり1,300~2,800円割高です。派遣に依存している薬局が常勤採用へ切り替えることでこのコスト差が改善されます。

ただし常勤薬剤師の採用には時間がかかります。計画上は派遣から常勤への段階的な切り替えとして設計する必要があります。

項目

派遣薬剤師1名(薬局負担)

常勤薬剤師1名(給与+法定福利費)

差額

年間コスト(週40時間=年2,000時間)

約900~1,200万円

約644万円

▲256~556万円

改善策②:離職率の改善による派遣料・紹介料の抑制

離職が発生すると2つの費用が必然的に発生します。第一に欠員期間を派遣薬剤師で補填するコストです。前述のとおり派遣の薬局負担は常勤の約1.4~1.9倍です。第二に補充採用に伴う人材紹介料です。薬剤師の人材紹介料は想定年収の30~35%が相場であり常勤1名の補充で約200万円が発生します。離職率を下げて欠員と補充採用の頻度そのものを減らせばこれらのコストを抑制できます。

パート薬剤師の時給を200円引き上げる場合の年間コストは約90万円です(200円×1,500時間×3名)。この投資で常勤の離職を年1名分でも回避できれば派遣補填コストと紹介料約200万円を合わせた数百万円の節約につながります。

施策

年間コスト

効果

パート薬剤師の時給引き上げ(200円/時間×3名)

約90万円

処遇不満による離職と派遣補填・紹介料の抑制

定期面談制度の導入(月1回)

ほぼゼロ

不満の早期検知と対応

下げると壊れる人件費の見分け方

以下のケースでは人件費の削減が事業を毀損します。

ケース①:常勤薬剤師の削減で配置基準を割る

薬剤師の員数基準(配置基準)は1日平均40枚の処方箋に対して1人です。1日平均50枚を扱う薬局は端数を切り上げて2名(うち1名はパート等でもOK)の薬剤師が必要になります。

人件費削減のために常勤薬剤師を1名減らして1名にすると員数基準を下回ります。員数基準を下回ったとしても即時に処方箋の受付ができなくなるわけではありません。しかし残った薬剤師の業務負荷が過重になり離職リスクが急速に高まります。離職が発生すれば欠員を高コストの派遣薬剤師で補填し、補充採用に伴う人材紹介料も発生します。結果として人件費はむしろ増加します。常勤薬剤師1名の人件費(給与+法定福利費)は年間約644万円です。これを削減するつもりで離職連鎖と派遣依存を招くのは本末転倒です。

ケース②:パート薬剤師の時給引き下げで離職が加速する

人件費削減のためにパート薬剤師の時給を引き下げると何が起きるか。パート薬剤師が条件の良い他の薬局に転職します。その結果として欠員が発生します。欠員は派遣薬剤師を高いコストで補填することにつながります。人件費はむしろ上昇します。

ケース③:加算算定に必要な人員を削減する

地域支援・医薬品供給対応体制加算の算定にはかかりつけ機能や在宅業務の実績が必要です。人件費削減のためにこれらの業務に従事する薬剤師を削減すると何が起きるか。加算が算定できなくなり年間数百万円の減収につながります。

人件費比率が高い場合の正しい対応

労働分配率が58%を超えている場合に人件費を下げろと指示するのは誤りです。以下の順序で原因を特定してください。

ステップ1: 人件費に見合った加算収入が得られているかを確認する
→ 加算が取りこぼされている場合は加算算定の改善で粗利を上げるのが正しい対応

ステップ2: 派遣薬剤師の依存度を確認する
→ 派遣依存度が高い場合は常勤採用への切り替えが正しい対応

ステップ3: 離職率を確認する
→ 15%超の場合は離職率改善(処遇見直し等)が正しい対応

つまり人件費比率の改善は人件費を下げるのではなく人件費の効率を上げる方向で設計すべきです。この考え方を1枚にまとめます。

調剤薬局の人件費 ─ 誤った削減と正しい対応の対比
人件費項目よくある誤った削減削減で起きること正しい対応
常勤薬剤師の給与人員を減らして圧縮する配置基準を割り受付制限が発生して売上が減る加算算定で粗利を上げ効率化する
パート薬剤師の時給時給を引き下げる離職と欠員で高コストの派遣補填を招く処遇を維持し定期面談で離職を防ぐ
派遣薬剤師の費用依存をそのまま継続する常勤の約1.4〜1.9倍のコストが固定化する段階的に常勤採用へ切り替える
加算に必要な人員在宅やかかりつけ担当を削減する加算が取れず年数百万円の減収になる人員を維持し加算算定を継続する
残業代一律でカットする業務が回らず調剤品質が低下する業務効率化で時間外の総量を減らす

出典:本記事の人件費分析に基づく。派遣の倍率は薬局負担の時給(約4,500〜6,000円)を常勤の負担時給(給与+法定福利費で約3,200円)と比較した概算。

担当先の計画書に人件費を下げると書いてあったら、この表のどの行に当たるかを確かめてください。行が分かれば次の一手が決まります。


📩 CTA ─ 「人件費を下げろ」だけの経営改善計画に疑問を感じている方へ

調剤薬局の人件費削減は配置基準や加算算定要件の制約があり安易な削減は事業を壊します。MKマネジメントは認定経営革新等支援機関として人件費の効率化を軸にした経営改善計画を策定します。加算算定の最適化と採用の見直しと離職率改善を組み合わせた現場が動く計画を提供します。

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5. その他経費の見直し余地

人件費以外の経費について改善余地を整理します。

家賃

調剤薬局の家賃は粗利益に対して5~8%が一つの目安です。売上には薬剤料の仕入が含まれるため、家賃も人件費と同様に粗利益との比率で見ると実態をつかみやすくなります。

状況

対応

家賃が粗利益の8%以下

適正範囲。見直しの優先度は低い

家賃が粗利益の8~10%

賃料交渉の余地あり。近隣相場との比較を実施

家賃が粗利益の10%超

明らかに過大。移転も含めた検討が必要

門前薬局では家主が門前医療機関の関係者であるケースがあります。この場合は賃料交渉が難しくなります。それでも経営改善計画に賃料見直しの交渉を実施すると記載すること自体は有効です。

リース料

調剤機器(分包機・監査システム等)のリース料は月額5~15万円程度が一般的です。リース期間満了時に更新するか購入するかの判断が経費削減のポイントになります。

水道光熱費・通信費

調剤薬局の水道光熱費・通信費は月額5~10万円程度であり改善効果は限定的です。経営改善計画にこれらの削減を大きく盛り込むのは現実的ではありません。

広告宣伝費

調剤薬局の広告宣伝費は一般小売業と比較して極めて小さいのが特徴です。処方箋は医療機関から発行されるため薬局が直接的な集客活動を行う必要性が低いためです。

ただし面対応を強化する場合は地域の医療機関への営業活動費が発生します。

6. リスケ時のPL設計 ─ 実務の手順

リスケジュールに伴う経営改善計画のPL設計を5つの手順で整理します。

手順①:実態PLの把握

決算書のPLをそのまま使うのではなく実態に即した修正を加えます。

修正項目

内容

役員報酬の適正化

経営者報酬が過大な場合は適正水準に修正

不動在庫の除外

在庫のうち不動在庫を資産から除外して実態を反映

減価償却費の確認

定率法の場合は年度によって金額が大きく異なるため確認

一時的な費用の除外

訴訟費用・災害関連費用等の一過性の費用を除外

手順②:売上前提の設定

前提の種類

設定方法

処方箋枚数

直近12か月の月次推移からトレンドを外挿。増加は見込まず横ばいか微減を基本

技術料単価

現行の加算算定状況を維持する前提で計算。加算改善はアクションプラン実行後に反映

薬剤料単価

現行水準を維持。薬価は毎年改定されるため毎年1~2%程度の引き下げを織り込む

保守シナリオ

次回改定で技術料が5%引き下げられた場合および社会情勢の不安定化による原料調達コストの上昇で仕入比率が悪化した場合の売上と粗利を別途試算

手順③:費用前提の設定

費用項目

設定方法

薬剤仕入高

在庫管理改善(廃棄損低減)の効果のみを織り込む。仕入比率の低下は近年困難なため計画では織り込まない

人件費

配置基準と加算要件を満たす範囲で効率化。派遣→常勤切り替えの効果を反映

家賃

交渉の結果を反映。交渉未実施の場合は現行据え置き

その他経費

現行水準を基本とし明確な削減策がある場合のみ反映

手順④:アクションプランと数値の連動

PLの数値変動はすべて具体的なアクションプランと連動させます。

アクションプラン

PLへの反映箇所

効果発現時期

地域支援・医薬品供給対応体制加算の算定開始

売上高(技術料単価の上昇)

計画1年目後半

後発品の銘柄選定見直し

薬剤仕入高の限定的な減少

計画1年目

不動在庫の返品処理

在庫廃棄損の減少+一時的な資金回収

計画1年目

派遣→常勤の切り替え

人件費の減少

計画1年目~2年目

パート時給の引き上げ

人件費の微増(離職率改善のための投資)

計画1年目

手順⑤:返済計画との整合

PLから算出した返済原資(営業利益+減価償却費−法人税等)がリスケ後の返済額を上回ることを確認します。

返済原資 = 営業利益 + 減価償却費 − 法人税等

法人税等の見積もりは実効税率(約30%)を営業利益に乗じて概算します。

なお本式は簡易版です。本来の返済原資は支払利息を控除した後の数値で評価します。借入残高が大きい先では支払利息の影響が無視できないため、実務では税引後当期純利益+減価償却費(経常利益から支払利息と法人税を控除した後に減価償却費を足し戻す形)で算定するのが厳密です。本記事のモデルケースは説明を簡潔にするため営業利益ベースで概算しています。

返済原資 > 年間返済額 が成立しなければ計画は破綻しています。

ここまでの論点を、担当先の計画に当てはめるチェック表にまとめます。

融資担当者のための 経営改善計画 PL前提チェック表
チェック項目危険なサイン確認すべき根拠
処方箋枚数の前提年5%増など増加を見込む門前医療機関の患者数や面・在宅の具体策があるか
加算による増収算定すると書くだけ要件充足のアクションプランと所要期間があるか
人件費削減人件費を一律で下げると記載配置基準や加算要件を割らない範囲か
報酬改定・原料調達リスク改定または社会情勢の影響を織り込まない主要点数5%減と仕入比率1pt悪化の保守シナリオがあるか
返済原資営業利益+減価償却が返済額に届かない返済原資が年間返済額を上回るか
薬剤仕入比率1pt以上の改善を見込む計画近年は社会情勢の不安定化で実現困難。改善の中心は廃棄損低減と銘柄選定か

出典:本記事の各章のチェックポイントを集約。返済原資=営業利益+減価償却費−法人税等。

このチェック表を、いま手元にある一番気になる案件に当ててみてください。危険なサインが一つでも当たれば、それが相談の入り口になります。


7. モデルケース:A社のリスケPLシミュレーション

他の記事でも使用している調剤薬局5店舗チェーンA社を事例としてリスケ時のPL設計を行います。

※本事例は制度の理解を深めるために設定した架空のモデルケースです。A社の各店舗は月約1,000枚規模であり全国平均に近い単価を前提としています。1章の門前薬局の例と同じ単価水準です。

A社の現状PL(年間)

科目

金額

売上比

売上高

6.0億円

100%

薬剤仕入高

▲4.2億円

70%

粗利益

1.8億円

30%

人件費

▲1.45億円(14,535万円)

24.2%

家賃

▲0.18億円

3%

減価償却費

▲800万円

1.3%

紹介手数料

▲400万円

0.7%

その他経費

▲465万円

0.8%

営業利益

0万円

0.0%(実質損益分岐)

※労働分配率は1.4535億円÷1.8億円=約80.8%であり極めて高い水準です。

※本モデルケースの前提に関する注記
本事例は制度理解のために簡易化した数値です。減価償却費は5店舗ぶんの分包機・監査システム・内装等を見込み年800万円を別建てで計上しています。

紹介手数料は離職率15%下で常勤2名の補充採用を想定し年400万円を計上しています。改善策②の取り組みで離職率が10%以下に低下すれば1名分の補充採用が抑制され年200万円に縮小します。より厳密には年1〜2名の補充規模となり紹介料は200〜400万円のレンジで推移します。

その他経費465万円はリース料と水道光熱費・通信費等の非減価償却費であり、説明を簡潔にするため低めに設定しています。実際の5店舗チェーンではその他経費だけで年600〜1,500万円規模になるため、実態PLではより高く見積もる必要があります。

また家賃1,800万円は粗利益の約10%であり5章の基準では交渉余地のある上限水準です。実際の計画ではこれらを現実的な水準に置き換えたうえで営業利益と返済原資を再計算してください。

A社の問題の構造

A社の営業利益率は実質的に0%であり離職に伴う紹介料を計上すると損益分岐にあります。しかし問題は売上が少ないことではありません。以下の構造にあります。

①人件費の内訳に問題がある

  • 常勤薬剤師12名の人件費:約8,400万円(年収700万円×12名)

  • パート薬剤師3名の人件費:約1,035万円(時給2,300円×1,500時間×3名)

  • 派遣薬剤師の費用:約1,200万円(2店舗で恒常的に利用。薬局負担時給6,000円×2,000時間でフルタイム約1名分)

  • 事務員10名の人件費:約2,800万円

  • 法定福利費:約1,100万円

※常勤薬剤師の平均年収700万円は管理薬剤師等を含む水準です。後述の派遣→常勤の切り替えで新規採用する常勤は若手薬剤師を想定し年収560万円(法定福利費込みで約644万円)としています。派遣費1,200万円との差額約560万円を削減効果に計上しています。

②加算の取りこぼし

  • 地域支援・医薬品供給対応体制加算を5店舗中2店舗でしか算定していない(3店舗分の機会損失:年間約970万円。加算1の27点を1店舗約1,000枚/月で算定すると324万円/年、3店舗で約972万円)

③在庫管理の問題

  • 在庫回転日数33日。不動在庫率32%。年間廃棄損210万円

④離職に伴う紹介料の発生

  • 離職率15%により毎年約2名の常勤補充が必要となり、年間約400万円の紹介手数料が継続的に発生

改善後PL(計画3年目の目標)

科目

現状

計画3年目

差額

改善の根拠

売上高

6.0億円

6.12億円

+1,212万円

加算算定改善+在宅拡大による技術料増収

薬剤仕入高

▲4.2億円

▲4.2億円

±0

仕入比率は現状維持を保守的に想定

粗利益

1.8億円

1.92億円

+1,212万円

人件費

▲1.45億円

▲1.41億円

+470万円

派遣→常勤切替。パート時給は引き上げ

家賃

▲0.18億円

▲0.18億円

±0

据え置き

減価償却費

▲800万円

▲800万円

±0

据え置き

紹介手数料

▲400万円

▲200万円

+200万円

離職率改善で補充採用を半減

その他経費

▲465万円

▲339万円

+126万円

廃棄損低減

営業利益

0万円

2,008万円

+2,008万円

営業利益率

0.0%

3.3%

+3.3pt

改善の内訳

アクションプラン

年間効果

効果の性質

地域支援・医薬品供給対応体制加算の算定開始(3店舗)

+972万円

売上改善

在宅業務の拡大(2店舗)

+240万円

売上改善

派遣→常勤の切り替え(1名分)

+560万円

人件費効率化

在庫改善(廃棄損低減)

+126万円

経費削減

紹介料抑制(離職率15%→10%相当・1名分回避)

+200万円

採用関連コスト削減

パート時給引き上げ(離職防止投資)

▲90万円

コスト増(意図的な投資)

合計

+2,008万円

※加算の年間効果は地域支援・医薬品供給対応体制加算1(27点)を3店舗で新規算定する想定です。1店舗約1,000枚/月で324万円/年、3店舗で約972万円になります。上位区分を取得できればさらに増えます。

返済計画との整合

項目

現状

計画3年目

営業利益

0万円

2,008万円

減価償却費

800万円

800万円

法人税等(概算30%)

▲0万円

▲602万円

返済原資

800万円

2,206万円

借入金1.2億円に対して返済原資約2,206万円の場合の債務償還年数は約5.4年です。現状の返済原資800万円では債務償還年数が約15.0年であり、計画の実行で3分の1強まで短縮される構図です。

リスケ期間を1年間(元金据え置き)とし2年目以降に元金返済を再開する場合は年間返済額を1,800万円程度に設定すれば返済原資の範囲内に余裕をもって収まります。

保守シナリオ

本計画には3つのストレスシナリオを織り込みます。

シナリオ①:次回改定で技術料が5%引き下げられた場合

計画3年目の営業利益は約1,050万円(返済原資約1,530万円)です。年間返済額1,300万円程度であれば対応可能です。

シナリオ②:社会情勢の不安定化が長期化し原薬と医薬品包材の調達コストが高止まりした場合

公定薬価制度の下では物流費高騰分を販売価格に転嫁できないため、メーカーから卸を経て薬局への価格圧力が継続します。仕入比率が1ポイント悪化した場合の計画3年目の営業利益は約1,400万円(返済原資約1,780万円)です。年間返済額1,300万円程度であれば対応可能です。

シナリオ③:①と②の二重ストレス

技術料5%減と仕入比率1ポイント悪化が同時発生した場合の計画3年目の営業利益は約430万円(返済原資約1,100万円)です。年間返済額800万円程度までは対応可能です。ただし債務償還年数は約10.9年に伸びるためリスケの再交渉が視野に入る水準になります。この二重ストレスは近年の社会情勢を踏まえれば現実的な可能性として織り込むべき水準です。

8. MKマネジメントの支援アプローチ

MKマネジメントは認定経営革新等支援機関(認定ID:109627000610)として調剤薬局のリスケに伴う経営改善計画の策定に対応しています。

計画策定の特徴

特徴

内容

PL各科目の実態把握

人件費の内訳(常勤・パート・派遣・人材紹介料)を分解して分析

加算算定の整合性検証

加算改善策と人員体制の整合性を事前に検証

下げることを検討すべき人件費の特定

派遣依存度と離職に伴う派遣補填コストおよび人材紹介料を分析して効率化の余地を定量化

保守シナリオの提示

改定リスクと社会情勢の不安定化による薬価差益の減少リスクを織り込んだ感応度分析

金融機関への説明

バンクミーティングでのPL前提の説明に同席

私は薬剤師として現場を知り、診断士として数字を読みます。この両輪で、計画書の数字と現場の実態の橋渡しをします。


📩 CTA ─ 調剤薬局のリスケに伴う経営改善計画の策定をご検討中の方へ

MKマネジメントは認定経営革新等支援機関(認定ID:109627000610)として405事業にも対応しています。

金融機関のご担当者様へ: 取引先の調剤薬局のリスケ案件について、計画のPL前提が妥当か判断したい、人件費削減の計画が実行可能か検証したいという場合はご連絡ください。セカンドオピニオンとしてのレビューも承ります。

税理士の先生方へ: 顧問先の調剤薬局が金融機関から経営改善計画を求められている場合は連携対応が可能です。

初回のご相談は無料です。

お問い合わせはこちら


最後に

調剤薬局の経営改善計画のPL設計は、大きく動かせる項目が少ないという業界構造を前提に行う必要があります。

本記事のポイントを整理します。

売上高の前提

  • 処方箋枚数は現状維持または微減を基本とする

  • 加算算定の改善は具体的なアクションプランと所要期間が必要

  • 改定リスクと薬価差益の減少リスクを織り込んだ感応度分析(保守シナリオ)が不可欠

人件費比率の評価

  • 人件費を下げろではなく人件費の効率を上げる方向で設計する

  • 下げるべき人件費は離職に起因する派遣料・人材紹介料

  • 下げると壊れる人件費は常勤薬剤師の給与と加算算定に必要な人員

  • 労働分配率が高い場合はまず加算の取りこぼしを確認する

PL設計の手順

  • 実態PLの把握 → 売上前提の設定 → 費用前提の設定 → アクションプランとの連動 → 返済計画との整合

最後にもう一度だけ問いかけます。あなたの担当先の改善計画は、現場が動く計画になっていますか。机上で数字を下げただけの計画になっていないでしょうか。その見極めのために本記事を使っていただければ幸いです。


免責事項:本記事の内容は2026年5月時点の情報に基づいています。調剤報酬の点数は2026年度(令和8年度)改定後の値であり施行は2026年6月1日です。社会情勢は流動的であり、医薬品供給体制への影響は今後も変化する可能性があります。
本記事で使用しているモデルケースは制度理解のために設定した架空の事例であり特定の企業や金融機関を指すものではありません。