在宅薬学総合体制加算の見直しが調剤薬局の収益に与える影響 ─ 金融機関が押さえる算定要件と投資回収

2026/7/26 05:11

報酬改定と収益計画

調剤薬局

MKマネジメント|認定経営革新等支援機関(ID:109627000610)


この記事の想定読者

本記事は金融機関の融資担当者顧問税理士M&A仲介会社の担当者を主な想定読者としています。取引先の調剤薬局が2026年度の調剤報酬改定でどのような収益影響を受けるかを評価する際に在宅薬学総合体制加算の改定内容を正確に理解しておくことが重要です。

今回の改定で在宅薬学総合体制加算は設備から実績へという評価軸の転換が行われました。点数は大幅に引き上げられた一方で算定要件は厳格化されています。本記事ではこの改定が調剤薬局の収益構造にどのようなインパクトを与えるかを人事×収益の視点から具体的なモデルケースとともに解説します。


目次


1. 在宅薬学総合体制加算とは何か

在宅薬学総合体制加算は在宅患者に対する薬学的管理・指導を行う体制を評価する加算です。調剤基本料に上乗せする形で算定されます。

この加算の対象となるのは以下の指導料を算定している患者の処方箋を受け付けて調剤を行った場合です。

  • 在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)

  • 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料

  • 在宅患者緊急時等共同指導料

  • 居宅療養管理指導費(介護保険)

  • 介護予防居宅療養管理指導費(介護保険)

つまりこの加算は在宅業務を安定的に実施できる薬局を調剤基本料への上乗せで評価する仕組みです。在宅患者の処方箋を受け付けるたびに加算が算定されるため在宅業務の規模が大きい薬局ほど加算による増収額も大きくなります。

2024年度改定で旧制度の在宅患者調剤加算から名称変更されるとともに加算1(15点)と加算2(50点)の2区分に再編されました。そして2026年度改定でさらに大幅な見直しが行われています。

金融機関の融資担当者にとってこの加算は取引先の調剤薬局が在宅業務にどの程度注力しているかを測る指標として活用できます。加算の算定状況を確認することで薬局の経営戦略と将来の収益見通しを評価する材料になります。


📩 取引先の調剤薬局の在宅業務の収益性を把握したい方へ

在宅薬学総合体制加算の改定は調剤薬局の収益構造に大きな影響を与えます。しかし加算の算定要件は複雑であり薬局ごとに影響の大きさが異なります。MKマネジメントは認定経営革新等支援機関として調剤薬局の在宅業務を含む収益シミュレーションに対応しています。取引先の薬局について在宅の体制が十分か、改定後にどの程度の増収が見込めるかを知りたい場合はお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。

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2. 2026年度改定で何が変わったか ─ 改定前後の比較

点数の変更

区分

改定前(2024年度)

改定後(2026年度)

増減

加算1

15点

30点

+15点(倍増)

加算2 イ(単一建物診療患者または単一建物居住者が1人)

50点(イ・ロの区分なし)

100点

個人宅を新区分として分離し増点

加算2 ロ(イ以外)

50点(イ・ロの区分なし)

50点

点数は変更なし

(出典:令和8年度調剤報酬点数表・2026年6月1日施行

本改定は2026年6月1日に施行されています。実績要件は前年5月から当年4月の期間で判定されるため融資先の算定可否は毎年6月に入れ替わる点に注意が必要です。なお加算2を算定する場合は改定後の基準であらためて地方厚生局への届出が必要です。

加算1は15点から30点に倍増しました。加算2は改定前に区分のない一律50点でしたが、改定後は単一建物診療患者または単一建物居住者が1人の場合をイとして分離し100点が設定されました。イ以外の場合はロとして50点で据え置きです。なおイの算定範囲には後述のポイント④で述べる例外があります。

改定の設計思想

この点数設計から国の政策意図が読み取れます。

個人宅への訪問を手厚く評価する。 施設在宅(同一建物に複数人を訪問するケース)は1訪問あたりの効率が高い一方で個人宅への訪問は移動時間が長く1件あたりのコストが高くなります。国は効率性の低い個人宅訪問を手厚く評価することで地域に点在する在宅患者への薬学的管理を促進する方針を明確にしました。

設備から実績への評価軸転換。 後述しますが加算2の算定要件から無菌室の設置義務が外され代わりに訪問実績や麻薬対応・小児在宅等の実績要件が導入されました。「設備を持っているか」ではなく「実際にやっているか」で評価する方向に舵を切っています。


3. 加算1の算定要件と収益インパクト

加算1の主な算定要件

要件項目

改定前(2024年度)

改定後(2026年度)

在宅訪問の届出

必要

必要(変更なし)

訪問薬剤管理指導等の実績

24回以上

48回以上

開局時間外の対応体制

必要

必要(変更なし)

在宅医療に関する研修計画の実施

必要

必要(変更なし)

医療材料・衛生材料の供給体制

必要

必要(変更なし)

麻薬小売業者の免許

必要

必要(変更なし)

服薬管理指導料の注1に規定する服薬管理指導の届出

必要(新設)

(出典:厚生労働省 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて/令和8年3月5日保医発0305第8号

最大の変更点は訪問実績の要件が年24回から48回に倍増した点です。点数が倍になった分だけ実績要件も倍になっています。

年48回は月平均4回に相当します。ただし判定は前年5月から当年4月までの年間合計で行われるため毎月4回の算定が必須という意味ではありません。ある月が2回で別の月が6回であっても年間合計が48回に達していれば回数要件は充足します。取引先を評価する際は月次の平均ではなく年間実績が安定して48回を上回るかどうかを確認してください。

もう一つの新設要件として服薬管理指導料の注1に規定する服薬管理指導の届出が必要となりました。これはかかりつけ薬剤師が行う服薬管理指導に係る届出です。2026年度改定ではかかりつけ薬剤師指導料とかかりつけ薬剤師包括管理料が廃止され服薬管理指導料1のイおよび2のイに統合されました。かかりつけ薬剤師の体制整備が加算1の前提条件に加わったことを意味します。

加算1の収益インパクト

加算1の点数が15点から30点に倍増したことによる増収効果を試算します。

月間在宅患者数

改定前(15点)

改定後(30点)

年間増収額

10人(月10回算定)

月1,500円

月3,000円

1.8万円

30人(月30回算定)

月4,500円

月9,000円

5.4万円

50人(月50回算定)

月7,500円

月15,000円

9.0万円

100人(月100回算定)

月15,000円

月30,000円

18.0万円

加算1単独での増収額は在宅患者数に比例しますが1店舗あたりの金額としては限定的です。加算1の意義は「在宅業務の基盤を評価する」点にありこの加算だけで大きな収益改善を期待するものではありません。


4. 加算2の算定要件と収益インパクト ─ 個人宅と施設の評価差

加算2の主な算定要件

加算2は加算1と比較して大幅に厳しい要件が課されています。

要件項目

内容

加算1の要件

すべて充足が前提

薬剤師数

常勤換算3名以上

開局時間中の体制

原則として2名以上が常駐し常態として調剤応需および在宅患者の急変等に対応可能

訪問実績(絶対数)

在宅患者訪問薬剤管理指導料1+緊急訪問+緊急時等共同指導+単一建物1人の居宅療養管理指導費および介護予防居宅療養管理指導費の合計が年240回以上かつ全在宅実績の2割超。または年480回以上かつ1割超

質の高い実績(選択制)

以下のいずれかを充足:ア)麻薬管理指導加算等10回以上/年イ)無菌製剤処理加算1回以上/年ウ)乳幼児・小児特定加算6回以上/年

高度管理医療機器販売許可

必要

(出典:厚生労働省の施設基準通知等を基にMKマネジメント整理)

加算2の改定ポイント

ポイント①:無菌調剤設備の保有要件が廃止され、麻薬対応・無菌製剤処理・小児在宅等の実績を問う要件へ変更された。

改定前の加算2は医療用麻薬の備蓄と無菌調剤設備(無菌室・クリーンベンチ・安全キャビネットのいずれか)を備えるルートか小児在宅の実績(年6回以上)ルートの選択制でした。実際には無菌設備を届け出た薬局の約3分の2で無菌製剤処理加算の算定実績がなく設備の保有が実質的な参入障壁と化していました。2026年度改定ではこの設備要件が廃止され代わりに麻薬対応・無菌調剤・小児在宅のいずれかの実績を求める形に変わりました。これにより無菌設備を持たない薬局でも麻薬対応や小児在宅の実績があれば加算2を算定できるようになります。

ポイント②:個人宅訪問の実績が明確に問われるようになった。

訪問実績の要件は分子と分母の定義を正確に押さえる必要があります。分子に入るのは在宅患者訪問薬剤管理指導料の1と単一建物居住者が1人の場合の居宅療養管理指導費に加え、居住形態を問わない在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料と在宅患者緊急時等共同指導料です。分母はこれらを含む在宅関連指導料の全区分です。したがって施設入居者への緊急対応も分子に算入されます。これらの合計が年240回以上かつ全在宅実績の2割超という割合要件も加わりました。施設在宅のみに依存している薬局はこの要件を満たせない可能性があります。

ポイント③:常勤換算3名以上の薬剤師が必要。

この人員要件は小規模薬局にとって極めて高いハードルです。常勤薬剤師2名にパート薬剤師を加えて常勤換算3名以上を確保する必要があります。

ポイント④:施設在宅でも加算2イ(100点)を算定できる例外がある。

2026年5月29日付の保険局医療課事務連絡により留意事項通知が訂正されました。次のアまたはイに該当する薬局がウまたはエに該当する患者の処方箋を受け付けて調剤を行う場合は、単一建物診療患者数にかかわらず加算2イ(100点)を算定できます。

ア:加算1を届け出た薬局のうち直近1年間の個人宅系の算定回数が割合を問わず計480回以上のもの

イ:加算2を届け出た薬局

ウ:特掲診療料の施設基準等 別表第8の2に該当する患者(末期の悪性腫瘍・指定難病・在宅酸素療法・在宅中心静脈栄養法・気管カニューレ使用・人工肛門設置等)

エ:同 別表第8の3に該当し包括的支援加算の対象となる状態の患者(要介護3以上・認知症高齢者の日常生活自立度ランクIII以上・週1回以上の訪問看護・麻薬の投薬を受けている状態等)

算定にあたっては調剤報酬明細書の摘要欄に、薬局がアとイのいずれに該当するかと患者がウとエのいずれの状態に該当するかを記載します。

金融機関の融資担当者にとっての含意は明快です。施設在宅中心の薬局であっても、重症度の高い患者や要介護度の高い患者を抱えていれば増収余地が存在します。取引先の在宅患者の内訳を確認する際は、個人宅か施設かという区分だけでなく患者の状態区分まで踏み込む必要があります。

加算2の収益インパクト

加算2の点数は「単一建物1人」(主に個人宅)で100点、「それ以外」(主に施設在宅)で50点です。

※施設在宅(単一建物1人以外)は原則として50点で据え置きのため改定前後の増収はありません。ただしポイント④の特例に該当する患者については施設在宅でも100点を算定できます。

個人宅比率が高い薬局ほど加算2の算定額が大きくなる設計です。ただし施設在宅のみの薬局については3点の留意が必要です。第一に施設入居者への計画的な訪問は分子に算入されないため、緊急対応だけで年240回以上かつ2割超を満たすことは実務上極めて困難です。第二に仮に算定できた場合でも加算1(30点)から加算2ロ(50点)への切替による増収は1回あたり20点にとどまります。第三にポイント④で述べた特例に該当する患者については施設在宅であっても加算2イ(100点)を算定できます。


5. 算定を阻む3つの壁 ─ 人事×収益の視点

在宅薬学総合体制加算(特に加算2)の算定要件は制度上の条件です。しかし実際にこれらの要件を満たすためには人材面の課題を解決しなければなりません。

壁①:常勤換算3名以上の薬剤師を確保できるか

加算2の最大のハードルは常勤換算3名以上の薬剤師という人員要件です。

調剤薬局における薬剤師の採用市場は逼迫しています。なお職業安定業務統計では医師・歯科医師・獣医師・薬剤師が一括で集計されており薬剤師単独の有効求人倍率は公表されていません。その上で紹介手数料の水準は明確です。薬剤師1名の採用につき理論年収の3割から4割が相場とされます(業界紙報道による水準であり公的な統計値ではありません)。年収500万円で3割なら150万円の支出となります。さらに厚生労働省の令和7年度医療等分野における雇用仲介事業に関する調査研究事業の報告書によれば有料職業紹介事業者経由で採用した薬局の6か月以内離職率は9.43%であり、それ以外の手法の5.12%を上回っています。採用コストと定着率の両面から評価する必要があります。

現在常勤換算2.5名の薬局が3名以上を確保するためにはパート薬剤師の勤務時間を増やすか新たに薬剤師を採用する必要があります。

ここで常勤換算の計算方法を正確に押さえておく必要があります。非常勤薬剤師の常勤換算は、その勤務時間を薬局が定める所定労働時間で除して算出します。所定労働時間が週32時間未満の場合は分母を32時間とします。

つまり所定労働時間が週32時間の薬局で0.5名分を確保するには週16時間の追加勤務が必要です。週8時間では0.25名分にしかなりません。この点を見誤ると必要人件費を半分に見積もることになります。取引先の経営改善計画に人員増強が盛り込まれている場合は、増員時間と常勤換算の対応関係を必ず確認してください。

人事×収益の試算

所定労働時間を週32時間とし、パート薬剤師を週16時間増やして常勤換算3名を確保する場合の追加コストを試算します。

項目

金額

パート薬剤師の追加勤務(時給2,500円×週16時間×52週)

年間約208万円

ここで比較すべきは加算1から加算2への増分です。在宅患者50人・個人宅比率50%・月1回訪問の薬局で試算します。加算1は50人×30点で年18.0万円、加算2は個人宅25人×100点と施設25人×50点で年45.0万円となり増分は年27.0万円です。追加人件費208万円に対して増収27万円であり加算単体では投資回収に届きません。

つまり加算2を取得するかどうかの判断は加算2単独の増収ではなく在宅業務全体の収益(訪問薬剤管理指導料+居宅療養管理指導費+在宅薬学総合体制加算の合計)と投入する人件費を総合的に比較して行う必要があります。

壁②:在宅専任の薬剤師を育成できるか

在宅業務には外来調剤とは異なるスキルが必要です。

  • 患者宅での薬学的管理(残薬整理・服薬カレンダーの管理等)

  • 多職種との連携(医師・看護師・ケアマネジャーとの情報共有)

  • 緊急時の対応(夜間・休日のオンコール対応)

  • 麻薬の管理・指導

これらのスキルを持つ薬剤師は市場全体でも限られています。当社の実務経験上、外来調剤を中心に経験してきた薬剤師が在宅業務へ移行する際には、一定の研修・同行期間を要するケースがあります。必要な期間は本人の経験や指導体制によって異なるため、経営改善計画では個別に設定する必要があります。

壁③:在宅担当薬剤師の離職リスク

在宅業務は外来調剤と比較して身体的・精神的な負荷が高い業務です。以下のような理由で離職リスクが高まります。

  • 移動時間が長く拘束時間が延びる

  • 夜間・休日のオンコール対応が負担になる

  • 終末期ケアに関わることでバーンアウトするリスクがある

  • 外来調剤の仲間とのコミュニケーションが減り孤立感を感じる

在宅薬学総合体制加算の実績要件は前年5月1日から当年4月末日までの1年間で判定され当年6月1日から翌年5月末日まで算定できます。在宅担当薬剤師が退職して実績が途絶えた場合は翌年度に加算を算定できなくなるリスクがあります。

加算2を算定している薬局にとって、在宅担当薬剤師の離職後に代替人員を確保できず、人員要件や訪問実績を維持できない場合は、翌年度の加算区分変更や算定不能による減収リスクが生じます。例えば、月間在宅患者40人のうち加算2イと加算2ロを半々で算定している薬局が加算1へ移行した場合、年間減収額は約21.6万円です。患者数100人で加算2イと加算2ロを半々で算定している場合は約54万円となります。実際の影響額は患者構成と算定回数によって異なります。

この離職リスクを管理するために以下の対策が必要です。

対策

内容

在宅担当の複数名体制

1名に依存せず2名以上で在宅業務を分担

オンコール体制のローテーション化

特定の薬剤師に夜間対応が集中しない設計

在宅業務手当の設定

外来調剤との業務負荷の差を処遇で補填

定期的な面談

バーンアウトの兆候を早期に検知


📩 在宅業務の体制構築と人員確保に課題を感じている方へ

在宅薬学総合体制加算の算定は点数の計算だけでは完結しません。薬剤師の確保・育成・定着という人事課題を解決しなければ加算の取得も維持もできない構造です。

MKマネジメントは調剤薬局の人事・経営企画の実務経験を持つ中小企業診断士が運営する認定経営革新等支援機関です。在宅業務の収益シミュレーションだけでなく在宅担当薬剤師の確保・育成計画離職防止策まで含めた包括的な経営改善計画を策定します。

「在宅をやりたいが人が足りない」「在宅担当が辞めて加算が取れなくなりそう」という課題をお持ちの場合はお気軽にご相談ください。

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6. モデルケース:5店舗チェーンA社の在宅戦略シミュレーション

他の記事でも使用している調剤薬局5店舗チェーンA社(月間合計処方箋枚数4,800枚)を事例として在宅薬学総合体制加算の戦略を検討します。

※本事例は制度の理解を深めるために設定した架空のモデルケースです。

A社の改定前の状況

項目

内容

店舗数

5店舗

薬剤師数

15名(全店舗合計)

月間処方箋枚数

合計4,800枚(1店舗平均960枚)

在宅業務の状況

5店舗中2店舗で実施(月間合計40人の在宅患者)

在宅薬学総合体制加算

加算1を2店舗で算定(年間48回以上の実績あり)

在宅患者の内訳

個人宅15人+施設在宅25人

改定前の在宅関連収益(月間・2026年5月まで)

収益項目

月間金額(概算)

在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)

約18万円

居宅療養管理指導費(介護保険)

約12万円

在宅薬学総合体制加算1(15点×40回)

6,000円

在宅関連収益合計

約30.6万円

※加算1は2026年6月1日から30点に引き上げられています。上表は改定前の水準です。
※在宅患者訪問薬剤管理指導料および居宅療養管理指導費は、医療保険と介護保険の患者構成、単一建物の人数区分、月間訪問回数を設定した上での概算値です。在宅患者訪問薬剤管理指導料は単一建物診療患者が1人の場合が650点、2人から9人の場合が320点、それ以外が290点であり患者構成によって金額が大きく変わります。

シナリオ①:改定後の要件を満たして加算1を維持する

年48回以上へ引き上げられた訪問実績要件を満たし、服薬管理指導料の注1に係る届出を含む改定後の施設基準を充足していれば、加算1の点数引上げによる増収が見込まれます。

項目

改定前

改定後

差額

加算1(月間40回算定)

月6,000円

月12,000円

+6,000円/月

年間増収

約7.2万円

改定後の施設基準を既存人員で満たせる場合は、追加の人件費を伴わず年間約7.2万円の増収が得られます。

シナリオ②:1店舗を加算2に引き上げ(施設在宅中心)

在宅業務を集約的に実施している店舗(仮にα店)を加算2に引き上げようとするシナリオです。α店の在宅患者は25人(個人宅5人+施設在宅20人)で訪問頻度は月1回とします。

まず確認すべきは点数ではなく訪問実績要件です。個人宅5人に月1回訪問した場合の個人宅系実績は年60回にとどまり240回以上という水準に届きません。全在宅実績300回に占める割合も20.0%であり2割超という要件も満たしません。つまり月1回訪問という前提のもとでは常勤換算3名を確保しても加算2は算定できません。ポイント④の特例についても、α店は加算1届出薬局に適用される個人宅系実績年480回以上の基準を満たさず加算2の届出要件も満たしていないため適用できません。特例の薬局側要件はこの2つの選択制であり480回のみが条件ではない点に注意してください。

以下の試算は仮に要件を満たした場合の参考値として読んでください。施設中心の薬局にとっての現実的な選択肢は加算1の維持です。

加算2の取得に必要な追加コスト

項目

年間コスト

パート薬剤師の勤務時間増加(週16時間・常勤換算0.5名分)

約208万円

在宅業務手当(在宅担当2名×月1万円)

約24万円

車両維持費の増加(訪問件数の増加に事前対応)

約20万円

追加コスト合計

約252万円

加算2の増収効果

項目

月間金額

年間金額

加算2イ(個人宅5人×100点)

5,000円

6.0万円

加算2ロ(施設在宅20人×50点)

10,000円

12.0万円

加算2の年間算定額

18.0万円

差引(加算1の30点分を差し替え)

▲9.0万円

純増収

約9.0万円

追加コスト252万円に対して純増収9.0万円では投資回収は不可能です。

ただしこれは月1回訪問を前提とした場合です。計算上は個人宅5人へ月4回訪問すれば個人宅系実績は年240回に達します。ただしこれは個々の患者について月4回の訪問が医学的および薬学的に必要であり算定要件を満たす場合の計算です。

訪問回数は施設基準を満たすために設定するものではなく医師の指示と患者の状態に基づいて決まります。実際の訪問頻度によって要件充足に必要な患者数が変わるという点を押さえてください。

なお割合要件にも注意が必要です。個人宅5人へ月4回かつ施設20人へ月1回であれば分子240回に対して分母480回となり割合は50.0%です。

しかし施設側の訪問も月4回になると分母が1,200回に膨らみ割合は20.0%となって2割超を満たしません。分母が増えるほど不利になる構造です。

シナリオ③:個人宅訪問を拡大して加算2の効果を最大化

α店の在宅患者のうち個人宅を5人から20人に拡大し施設在宅は20人のまま維持するシナリオです(合計40人)。訪問と処方箋受付はいずれも月1回とします。

個人宅を20人とした理由は要件の構造にあります。加算2の実績要件は患者数ではなく算定回数で判定されます。在宅患者訪問薬剤管理指導料は原則として月4回まで算定できます。ただし、末期の悪性腫瘍、注射による麻薬投与が必要な患者、中心静脈栄養法の対象患者については、週2回かつ月8回まで算定できる例外があります。

一般的な患者について、月1回なら20人、月2回なら10人、月3回なら約7人、月4回なら5人と読み替えてください。

本シナリオは最も保守的な月1回を前提としているため個人宅20人という設定になります。この前提での個人宅系実績は年240回となり要件を満たします。全在宅実績480回に占める割合も50.0%であり2割超を満たします。実際の判定は患者数ではなくレセプトの算定回数で行う点に注意してください。

さらに個人宅を15人増やすことで在宅患者訪問薬剤管理指導料の増収が加わります。

追加コスト252万円に対して総増収144万円であり、この水準では投資回収に至りません。ここから損益分岐点を逆算します。

新規の個人宅患者1人あたりの年間増収は約9.0万円です。内訳は在宅患者訪問薬剤管理指導料が7.8万円、加算2イが1.2万円です。これに既存25人の加算区分変更による年9.0万円を加えると、必要な新規患者数は次の式で求められます。

9.0万円+新規人数×9.0万円 ≧ 252万円

新規27人で総増収は252.0万円となり追加コストとちょうど均衡します。既存5人を含めた個人宅32人が損益分岐点です。33人で総増収261.0万円となり黒字に転じます。

ここで重要なのは加算2の取得ラインと投資回収ラインが大きく離れている点です。取得だけなら個人宅20人で足りますが、投資を回収するには32人が必要です。この12人分の差が、在宅を始めることと在宅で利益を出すことが別の問題であることの正体です。金融機関の融資担当者としては、取引先が加算2の取得だけを目標に掲げている場合にこの差を指摘する必要があります。

なお個人宅32人の水準では個人宅系実績が年384回、全在宅実績624回に占める割合が61.5%となり、加算2の実績要件には十分な余裕が生まれます。

※損益分岐点32人は、新規の個人宅患者を全員医療保険の対象とし、単一建物診療患者1人の場合の在宅患者訪問薬剤管理指導料650点を月1回算定する前提です。介護保険が優先される患者の割合、訪問距離、追加の残業・車両費等によって、実際の損益分岐点は変動します。

シナリオ比較まとめ

シナリオ

追加コスト

年間増収

投資回収

①加算1維持

ゼロ

7.2万円

○(コストなし)

②加算2を検討(施設中心)

✕(月1回訪問では実績要件未達のため算定不可)

参考:②が要件を満たしたと仮定した場合

252万円

9.0万円

✕(加算単体では投資回収不可)

③加算2取得+個人宅拡大(20人)

252万円

144万円

△(回収には至らず)

④加算2取得+個人宅拡大(32人)

252万円

252万円

◎(損益分岐点。33人で黒字転換)

このシミュレーションから明らかなのは加算2は「取れるか取れないか」ではなく「個人宅訪問をどこまで拡大できるか」が収益性の分岐点になるという点です。

在宅戦略の意思決定フロー

A社のような中小チェーンが在宅戦略を検討する際には以下のフローで意思決定を行うことを推奨します。

ステップ1:加算1の要件を全店舗で充足する。
加算1は点数倍増(15点→30点)の恩恵を確実に取るべきです。要件は年48回の訪問実績であり在宅業務を一定程度行っている店舗であれば無理なく達成できます。

ステップ2:個人宅の需要がある地域かどうかを確認する。
施設在宅のみの地域では加算2の取得効果が限定的です。本モデルでは、加算2の取得ラインは個人宅20人ですが、追加投資の回収には個人宅32人程度が必要となります。取得ラインの約1.6倍の規模であり、取得可能かどうかではなく、回収可能な患者数まで拡大できるかを基準に判断する必要があります。取得可能かどうかではなく回収可能かどうかを基準に判断してください。近隣に在宅医療へ積極的な医療機関があるかどうかが見極めの目安になります。
(加算2の取得には、個人宅への計画訪問や緊急訪問等の対象実績について、年240回以上かつ全在宅実績の2割超、または年480回以上かつ1割超を満たす必要があります。本モデルでは緊急訪問等を見込まず、個人宅への月1回訪問だけで年240回を確保する前提としているため、個人宅20人を取得ラインとしています。)

ステップ3:人員確保の見通しを立てる。
常勤換算3名以上の薬剤師を確保できるかどうかが加算2の取得可否を左右します。採用コストと在宅業務の追加人件費を含めた投資回収計算を行ってください。

ステップ4:在宅担当薬剤師の離職リスクを管理する。
加算2の算定要件は年間の実績で判定されるため在宅担当薬剤師の退職は直接的な減収につながります。複数名体制での運用を前提としてください。


7. 金融機関・税理士が確認すべきチェックポイント

取引先の調剤薬局の経営を評価する際に在宅薬学総合体制加算に関連して確認すべきポイントを整理します。

チェックポイント①:在宅業務の有無と規模

最も基本的な確認事項は取引先の薬局が在宅業務を実施しているかどうかです。在宅業務を行っていない薬局は在宅薬学総合体制加算の対象外であり改定の恩恵を受けられません。

在宅業務を実施している場合は月間の在宅患者数個人宅と施設在宅の比率を確認してください。この比率が加算2の収益性を左右します。

チェックポイント②:加算の算定区分

取引先の薬局が現在加算1と加算2のどちらを算定しているかを確認してください。加算2を算定している薬局は一定の人員体制と訪問実績を備えている有力な指標であり改定後の個人宅訪問の増収効果を享受できる可能性があります。

チェックポイント③:在宅担当薬剤師の体制

在宅業務は特定の薬剤師のスキルと経験に依存しやすい業務です。在宅担当が1名体制の薬局はその薬剤師が退職した際に補充や配置変更ができなければ実績要件を満たせなくなるキーマンリスクを抱えています。

金融機関としては在宅担当薬剤師の人数・年齢・勤続年数を確認し退職リスクを経営改善計画に織り込んでいるかを評価してください。

チェックポイント④:加算の維持可能性

在宅薬学総合体制加算の実績要件は毎年度判定されます。取得よりも維持の方が経営上は重要です。

取引先が加算2を算定している場合は以下の点を確認してください。

  • 訪問実績が要件(年240回かつ2割超)を安定的に上回っているか

  • 麻薬対応・無菌調剤・小児在宅のいずれかの実績が確保されているか

  • 常勤換算3名以上の薬剤師が安定的に確保されているか

これらの要件を辛うじて満たしている場合は翌年度に要件未達で加算を喪失するリスクがあります。

訪問実績の確認は患者数ではなくレセプトの算定回数で行ってください。訪問実績の確認は、患者数ではなくレセプト等の算定回数で行ってください。分子には、在宅患者訪問薬剤管理指導料1、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等共同指導料、単一建物居住者が1人の場合の居宅療養管理指導費および介護予防居宅療養管理指導費等が含まれます。訪問頻度が高い薬局は少ない患者数でも要件を満たすため、患者数だけを見ると判断を誤ります。

チェックポイント⑤:在宅業務の収益性

在宅業務は加算だけでなく訪問薬剤管理指導料(医療保険)や居宅療養管理指導費(介護保険)を含めた総合的な収益で評価する必要があります。

同時に在宅にかかるコスト(薬剤師の移動時間・車両費・夜間対応手当等)も把握してください。加算と指導料の合計が在宅コストを下回っている場合は在宅業務が赤字である可能性があります。

明日の面談で使える3つの質問

質問1:御社の在宅患者のうち、個人宅に単独で訪問している方は何名いらっしゃいますか。

→ 加算2の実績要件は個人宅系で年240回以上です。月1回訪問なら20人が下限になります。この1問で取得可能性が概算できます。

質問2:在宅を担当している薬剤師は何名で、そのうち1年以上の在宅経験がある方は何名ですか。

→ キーマンリスクと加算の維持可能性が同時に把握できます。

質問3:在宅患者のうち要介護3以上または末期の悪性腫瘍の方は何名いらっしゃいますか。

→ 施設在宅であっても加算2イ(100点)を算定できる特例の対象となり得る患者規模を概算できます。実際の算定可否は薬局側の届出区分と患者の状態要件をレセプト単位で確認する必要があります。


8. MKマネジメントの支援アプローチ

MKマネジメントは認定経営革新等支援機関(認定ID:109627000610)として調剤薬局の経営改善計画策定に対応しています。

在宅薬学総合体制加算に関連してMKマネジメントが提供する支援は以下のとおりです。

支援内容

支援項目

内容

在宅業務の収益シミュレーション

加算1・加算2の取得による増収額と追加コストを店舗ごとに試算

在宅戦略の意思決定支援

加算2を目指すべきかどうかの投資回収判断を支援

人員体制の設計

常勤換算3名の確保に向けた採用計画・配置計画の策定

在宅担当薬剤師の定着策

離職リスクの分析と処遇改善・業務負荷軽減策の設計

経営改善計画への織り込み

在宅業務の拡大を経営改善計画のアクションプランに組み込む

405事業の活用支援

計画策定費用および伴走支援費用の2/3補助を活用した費用負担の軽減(対象経費と補助上限、利用要件があります)

調剤薬局の在宅戦略で見落とされがちな論点

在宅業務の拡大を検討する際に見落とされやすい論点があります。それは在宅を始めることと在宅で利益を出すことは別の問題だという点です。

在宅業務の立ち上げ初期は訪問件数が少なく移動効率も悪いため赤字フェーズが発生するのが一般的です。これまでの経験では、この赤字フェーズを乗り越えて安定的な黒字に転換するまでに1年から2年を要するケースが多くなっています。所要期間は地域の在宅需要、既存人員の余力、患者獲得の経路によって大きく変わります。

経営改善計画にこの赤字フェーズを織り込まずに在宅を始めれば増収になるという前提で計画を組むと、計画と実績の乖離が生じます。金融機関の融資担当者としてはこの時間軸を意識して計画の妥当性を評価してください。


📩 在宅薬学総合体制加算を含む経営改善計画の策定をご検討中の方へ

MKマネジメントは認定経営革新等支援機関(認定ID:109627000610)として405事業にも対応しています。

金融機関のご担当者様へ: 取引先の調剤薬局が在宅業務の拡大を計画している場合はその計画の実行可能性を検証する必要があります。加算の算定要件と人員体制の整合性を確認した上で現場が動く計画を策定します。

税理士の先生方へ: 顧問先の調剤薬局が在宅業務を強化したいと相談してきた場合は収益シミュレーションと人員確保計画を含む包括的な助言が必要です。連携対応が可能ですのでお気軽にご連絡ください。

薬局経営者の方へ: 在宅業務は「やるかやらないか」ではなく「どこまで投資してどこで回収するか」の判断が重要です。加算の点数だけでなく人件費・車両費・離職リスクまで含めた総合的な収益設計をお手伝いします。

初回のご相談は無料です。

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ポイント整理

2026年度改定で在宅薬学総合体制加算は点数の大幅引き上げ算定要件の厳格化が同時に行われました。「設備から実績へ」「施設在宅から個人宅へ」という評価軸の転換は調剤薬局の在宅戦略に大きな影響を与えます。

本記事のポイントを整理します。

点数の変更

  • 加算1は15点から30点に倍増。要件は年24回→48回に引き上げ

  • 加算2はイとロに分離され、単一建物1人の場合のイが100点、それ以外のロが50点
    ※加算2を届け出た薬局、または加算1を届け出た薬局のうち個人宅系実績が年480回以上ある薬局では、所定の重症患者や包括的支援加算の対象患者について施設在宅であっても加算2イの100点を算定できる

  • 無菌室の設置義務が廃止され麻薬対応・無菌調剤・小児在宅の実績で代替可能に

収益への影響

  • 加算2の増収効果は個人宅比率に大きく依存する

  • 加算2の実績要件は患者数ではなく算定回数で判定される。計画的な訪問については単一建物1人の場合のみが分子に算入されるため、施設入居者への計画訪問が中心の薬局は要件充足が困難になる
    (要介護3以上等の状態にある患者については施設在宅でも加算2イ(100点)を算定できる特例がある)

  • 加算2の取得には常勤換算3名以上の薬剤師が必要でありこの人件費が投資回収の障壁になる

人事×収益の視点

  • 在宅担当薬剤師の確保・育成には6か月~1年の期間が必要

  • 在宅担当薬剤師の離職は加算の降格や喪失に直結する。在宅40人規模で年21.6万円から36.0万円の減収

  • 加算の取得よりも維持の方が経営上のリスクが大きい

金融機関の融資担当者や税理士としては取引先の調剤薬局が在宅業務の拡大を計画している場合に人員確保の見通しと投資回収の時間軸を確認することが計画の実効性を評価する上で最も重要なチェックポイントです。


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執筆者:MKマネジメント代表 小坂 真義(中小企業診断士・薬剤師)


免責事項: 本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいています。点数および算定上の取扱いは令和8年3月5日付の留意事項通知(保医発0305第6号)に基づき、施設基準は同日付の特掲診療料施設基準通知(保医発0305第8号)に基づいて記載しています。あわせて令和8年5月29日付の保険局医療課事務連絡による通知訂正と同日付の疑義解釈資料(その7)の内容を反映しています。改定は2026年6月1日に施行済みです。本記事で使用しているモデルケースは制度理解のために設定した架空の事例であり特定の企業を指すものではありません。最新の情報は厚生労働省のウェブサイトをご確認ください。