調剤薬局は在宅業務を拡大すべきか―収益性・人員体制・返済力から見る判断ポイント

2026/7/26 05:11

報酬改定と収益計画

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調剤薬局

MKマネジメント|認定経営革新等支援機関(ID:109627000610)


情報基準日:2026年9月28日

調剤薬局の成長戦略や経営改善策を考えるとき、在宅業務の拡大は有力な選択肢の一つです。2025年3月31日、厚生労働省は「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」の議論のまとめを公表し、在宅医療における薬剤提供体制の課題と今後の方向性を整理しました。2026年度診療報酬改定でも、在宅薬学総合体制加算や在宅訪問薬剤管理指導に関する評価が見直されています。

ただし、政策上重要な業務であることと、個別の薬局にとって投資採算が合うことは別問題です。金融機関が確認すべきなのは「在宅へ積極的に取り組んでいるか」ではなく、在宅拡大後に継続的な利益とキャッシュフローが生まれ、既存借入を含む返済力が高まるかです。

本記事では、患者受入れの確度、個人宅・施設の構成、訪問密度、人員キャパシティ、追加投資、2026年度調剤報酬、運転資金、下振れシナリオを一つの経営計画として読み解きます。

この記事の結論
在宅業務は「患者数が増えるか」だけで判断しません。患者増による収入から、追加人件費・移動・ICT・車両・運転資金等を差し引き、最終的に返済前キャッシュフローが増えるかを確認します。

1.在宅業務は「重要だから拡大する」のではなく、事業性で判断する

在宅医療では、医師、訪問看護師、薬剤師、介護支援専門員等が連携して患者の療養を支えます。薬局には、薬剤提供に加え、服薬状況、残薬、副作用、医療用麻薬、医療材料、急な状態変化時の対応等が求められる場合があります。

一方、地域に高齢者が多いことや、在宅医療の需要が存在することだけでは、個別薬局の売上計画の根拠にはなりません。自社の売上になるには、医療機関、訪問看護事業所、居宅介護支援事業所、施設、既存患者等から具体的な相談・依頼が発生する必要があります。

したがって、「地域の高齢化を背景に来年は在宅患者を50人増やす」という計画だけでは不十分です。地域需要があることと、自社がその需要を受け入れられることを分けて確認します。

2.在宅業務の収益構造は「加算」だけでは説明できない

在宅業務に関係する収入には、在宅患者の調剤、医療保険の訪問薬剤管理、介護保険の居宅療養管理指導、在宅薬学総合体制加算等があります。一方で、費用も増加します。

区分

主な内容

収入

調剤、訪問管理、介護保険、在宅関連加算等

人件費

既存勤務増、パート増員、常勤採用、派遣、時間外対応

訪問費用

移動時間、車両、燃料、駐車場、交通費

固定・準固定費

ICT、モバイル端末、研修、待機体制等

運転資金

在庫、未収金、人件費先行等

初期投資

車両、端末、機器、環境整備等

例えば年間600万円の増収が見込めても、新規採用や車両、ICT、時間外対応等で年間500万円以上の追加負担が発生すれば、売上増と返済力の改善幅は大きく異なります。

反対に、既存人員と既存設備に余力があれば、同じ増収でも利益・CFへの寄与は大きくなり得ます。

3.個人宅と施設では「効率性」と「集中リスク」の形が違う

「在宅患者○人」と一括りにすると、採算構造を見誤ります。個人宅中心の在宅と、高齢者施設等への対応では、訪問効率、人員負荷、患者集中、連携先依存が異なります。

個人宅中心

訪問先が分散しやすいため、移動時間、駐車、予定変更等が生産性へ影響します。一方、患者・売上が一施設へ集中するリスクは相対的に抑えられる場合があります。

施設等中心

同一建物で複数患者へ対応できれば移動効率を高めやすい一方、一施設との関係変更で複数患者を同時に失う可能性があります。また、一度に多くの処方へ対応するため、業務量が特定日に集中することもあります。

重要なのは、個人宅か施設かの優劣ではなく、収益の再現性、訪問効率、人員負荷、集中度、下振れ時の影響です。

4.患者数より「訪問密度」を見る

在宅業務では、薬剤師が患者のもとへ移動します。厚生労働省の2020年9月調査では、回答者1,058人について、1訪問当たりの訪問先での平均業務時間は26分59秒、平均往復移動時間は25分34秒でした。これは現在のすべての薬局へそのまま適用する標準値ではありませんが、訪問そのものと同程度の時間が移動にも使われ得ることを示す参考データです。

一次資料は厚生労働省「薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要」で確認できます。

金融機関が見るのは詳細なルート設計そのものではありません。少なくとも、患者計画が訪問距離を無視した「人数×単価」だけの計画になっていないかは確認する価値があります。

5.最大の制約になりやすいのは「人員キャパシティ」

在宅業務では、患者宅に滞在している時間だけでなく、処方・薬歴確認、調剤・監査、移動、患者・家族対応、多職種連携、訪問後の記録、緊急・時間外対応等が発生します。

また、薬剤師が訪問へ出ている間も店舗の外来調剤は続きます。在宅部門だけでなく、外来側の残業、応援勤務、派遣増加、待ち時間等も含めて店舗全体で確認します。

厚生労働省のNDB分析では、在宅・夜間休日・高額薬剤・小児・麻薬等に関連する処方箋への対応について、常勤換算薬剤師数2人以下の薬局では実施割合が低く、5人超では高い傾向が示されています。人数だけで成功を説明するものではありませんが、在宅対応と人的キャパシティの関係を考える材料になります。

資料は厚生労働省「薬局における薬剤師の人数について」で確認できます。

6.人員・設備投資は段階化できるか

患者受入れの確度が十分でない段階で、常勤採用、車両、ICT等の固定費を一度に増やすと、立ち上がりが遅れた場合の資金負担が大きくなります。

そこで、薬局の状況によっては、既存人員・設備で小規模に開始し、実績を見ながら次の投資へ進む方法があります。

金融機関にとっては、「最終的に何店舗・何人まで拡大するか」だけでなく、次の投資へ進む条件が何かが明確な計画ほどモニタリングしやすくなります。

7.2026年度改定の在宅薬学総合体制加算は「収益の一要素」として見る

2026年度診療報酬改定では、在宅薬学総合体制加算の評価が見直されました。厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定説明資料等」によると、在宅薬学総合体制加算1は30点、加算2は単一建物診療患者または単一建物居住者が1人の場合100点、それ以外の場合50点です。

区分

2026年度

在宅薬学総合体制加算1

30点

在宅薬学総合体制加算2 イ

100点

在宅薬学総合体制加算2 ロ

50点

しかし、加算の点数だけで在宅事業の採算は決まりません。加算取得・維持のために必要な人員、実績、夜間・休日対応、麻薬・無菌・小児在宅等への対応、設備等が事業計画と整合しているかを確認します。

加算を利益へそのまま加えない
加算は売上の構成要素です。追加人員・運営費が必要なら、その費用を控除した利益・CFで評価します。また、制度改定によって将来の点数・要件が変わる可能性も織り込みます。

8.患者受入れ計画は「地域需要」より具体的に確認する

在宅拡大の売上計画で最も重要な前提の一つが患者受入れです。高齢化率や在宅医療需要は市場規模の参考になりますが、自社患者数の根拠にはなりません。

確認したいのは、次のような具体的な流入経路です。

  • 既存患者の在宅療養への移行

  • 医療機関からの相談・依頼

  • 訪問看護事業所・居宅介護支援事業所等との連携

  • 施設からの具体的な相談

  • 既存の紹介・依頼件数と成約実績

既に在宅業務を行っている薬局なら、過去12か月の患者数、新規受入れ、終了患者、相談件数、訪問件数を確認します。新規患者だけを累積し続けるのではなく、入院・施設入所・死亡等による終了を含めたネット患者数で見ることが重要です。

9.在宅売上の「集中」を3方向から確認する

在宅売上が安定して見えても、実態は特定の施設、医療機関、薬剤師へ集中している場合があります。

集中先

確認すること

施設

最大施設が在宅患者・在宅売上に占める割合、関係期間、代替先

医療機関・紹介元

新規患者流入が特定の紹介元へ偏っていないか

人

患者・家族・医師・施設との関係が特定薬剤師へ集中していないか

集中していること自体を否定的に評価する必要はありません。高い効率性と高い集中度が同時に存在する場合もあります。重要なのは、集中の理由、関係の安定性、代替策、失った場合の資金繰りが把握されているかです。

10.PL・BS・CFをつなげて返済力を見る

在宅拡大では、売上・利益が伸びているのに現預金が減ることがあります。人件費や設備投資が先行し、在庫・未収金が増えるためです。

概念的には、次の順番です。

在宅業務による増収
- 薬剤仕入等の増加
- 追加人件費
- 移動・ICT・その他運営費
= 営業面の改善

- 設備投資
- 在庫・未収金等の運転資金増加
= 在宅拡大による返済前CFへの寄与

そのうえで既存事業と合算し、元金・利息・税金・設備更新を支払った後も必要現預金を維持できるかを確認します。

11.Baseケースだけでなく下振れシナリオを確認する

在宅業務の拡大計画では、複数の前提が同時に動きます。少なくとも次のシナリオを確認しておくと、返済余力を把握しやすくなります。

下振れ

主な影響

患者受入れが6か月遅れる

人件費・設備費が先行し、CF改善が後ろ倒し

薬剤師採用が遅れる

患者を受けられない、または派遣等で費用増

既存在宅担当者が離職

補充・引継ぎ、連携先維持、既存患者対応へ影響

訪問エリアが広がる

移動時間増、1日当たり訪問可能件数低下

加算収入が計画未達

制度・実績前提が崩れ利益が下振れ

主要施設案件が終了

患者・売上集中が高いほど影響大

実務では複数要因が同時に発生する場合があります。一つの軽微な下振れで返済不能になる計画であれば、返済余力は小さいと考えるべきです。

12.経営改善では「拡大するか」より、投資の順番を設計する

既に資金繰りが厳しい薬局が、在宅拡大を経営改善計画の柱とする場合は特に慎重です。患者数が増える前に常勤採用・車両・ICT等へ投資すると、改善効果が出る前に資金が不足する可能性があります。

そのため、

  • 既存人員で対応できる範囲から開始する

  • 実際の訪問時間・外来影響を把握する

  • 患者受入れ実績を確認する

  • 勤務時間・役割分担を調整する

  • 必要性が確認できた段階で追加採用・設備投資を行う

といった段階設計が有効な場合があります。

金融機関は最終年度の黒字幅だけでなく、立ち上がり途中の最低現預金も確認します。

13.金融機関から経営者へ確認したい10の質問

  1. 現在の在宅患者数・訪問件数はどの程度ですか。

  2. 今後、いつまでに何人まで増やす計画ですか。

  3. 増加患者はどの連携先・経路から受け入れる予定ですか。

  4. 個人宅と施設の構成はどう変わりますか。

  5. 現在の人員でどこまで対応でき、いつ追加採用が必要ですか。

  6. 訪問先のエリア・移動時間は計画に反映されていますか。

  7. 在宅業務が特定薬剤師・施設・紹介元へ集中していませんか。

  8. 在宅拡大による年間増収と追加費用はいくらですか。

  9. 患者受入れ・採用が半年遅れた場合のPL・CFはどうなりますか。

  10. 返済後も必要な現預金を維持できますか。

14.MKマネジメントの支援範囲

MKマネジメントでは、金融機関・税理士・M&A関係者等からご相談いただいた調剤薬局案件について、在宅業務の拡大が返済力の改善につながる計画になっているかを整理します。

  • 患者受入れ計画と実績の整合

  • 個人宅・施設の構成と訪問効率

  • 現在の人員余力と追加採用時期

  • 特定薬剤師・施設・連携先への集中

  • 在宅関連収入と追加コスト

  • 2026年度調剤報酬上の前提

  • 在庫・未収金・設備投資等の資金需要

  • 患者受入れ・採用遅延等の下振れCF

  • M&A後の在宅収益の継続性

  • 金融機関向け説明材料の整理

個別の診療報酬・調剤報酬上の算定可否等は、最新通知・届出資料等に基づいて関係機関・専門家へ確認します。

金融機関・専門家の皆様へ

在宅拡大が経営改善計画や新規融資、M&A後の返済計画の重要前提になっている案件では、患者数だけでなく、人員・訪問効率・追加費用・資金繰りまで横断して確認することが重要です。

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FAQ|調剤薬局の在宅業務拡大でよくある質問

Q1.在宅業務は儲かりますか。

薬局によって異なります。既存人員・設備で対応できる場合と、常勤採用・車両・ICT等の追加固定費が必要な場合では採算が大きく異なります。売上ではなく追加費用控除後の利益・CFで判断します。

Q2.在宅患者は何人いれば採算が合いますか。

全国共通の人数基準は置けません。患者構成、訪問距離、頻度、人員体制、既存設備、報酬上の前提等で異なります。

Q3.個人宅と施設ではどちらが有利ですか。

一律には判断できません。個人宅は移動負担、施設は集中リスクなど、異なる論点があります。

Q4.在宅拡大には薬剤師の追加採用が必要ですか。

現在の人員余力によります。まず外来業務、残業、休暇、応援勤務等を含め、現在のキャパシティを確認します。

Q5.在宅薬学総合体制加算2を取得すれば利益は増えますか。

売上は増える可能性がありますが、取得・維持のための人員・運営費が増えれば利益の改善幅は異なります。

Q6.在宅拡大で資金繰りが悪化することはありますか。

あります。人件費・設備費が先行する場合や、在庫・未収金が増える場合には、利益が増えていても現金が減ることがあります。

Q7.施設から大口依頼が来た場合は積極的に受けるべきですか。

訪問効率だけでなく、必要人員、業務集中、施設依存度、案件終了時の影響を確認します。

Q8.在宅に強い薬局をM&Aすれば、その売上は維持できますか。

自動的には維持されません。在宅担当薬剤師、連携先、患者構成、施設依存、届出・人員体制等の継続性を確認します。保険薬局の開設者変更等については「保険薬局の遡及指定―事業承継・M&Aで確認すべき手続・人員・施設基準」も参照してください。

Q9.在宅業務が赤字なら撤退すべきですか。

赤字の原因によります。立ち上がり途中なのか、患者密度・人員・移動等に構造的な問題があるのかを分けます。

Q10.金融機関はどの数字を最も重視すべきですか。

一つの数字ではなく、在宅売上、追加人件費、利益、運転資金、返済前CF、返済後現預金を一連で確認します。

まとめ|在宅拡大の目的は「売上」ではなく「返済力を高めること」

在宅業務は、調剤薬局にとって重要な事業領域です。2025年の厚労省検討会の議論と2026年度診療報酬改定からも、在宅医療における薬局機能の重要性は確認できます。

しかし、金融機関の立場から評価するのは「在宅に積極的か」ではありません。

患者受入れの確度
↓
個人宅・施設の構成と訪問密度
↓
人員キャパシティ
↓
追加採用・設備投資
↓
PL・BS・運転資金
↓
返済前CFと返済後現預金

既存人員・設備に余力があり、患者受入れ経路が具体的で、訪問効率が高い薬局では、在宅拡大が収益力・返済力を高める可能性があります。一方、患者より先に固定費が増える計画や、採用成功・特定施設・加算等の複数前提がそろわなければ成立しない計画では、投資時期・規模・順序を慎重に設計する必要があります。

在宅患者数や加算点数ではなく、収益性、人員体制、訪問効率、下振れ耐性、最終的な返済力まで見る。これが、調剤薬局の在宅拡大を評価するうえで重要な視点です。

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主な参考資料

免責事項

本記事は、2026年9月28日時点で公表されている資料に基づく一般的な情報提供を目的としています。個別薬局の診療報酬・調剤報酬上の算定可否、融資可否、投資採算を確定するものではありません。

実際の判断では、対象薬局の届出資料、レセプト、患者構成、勤務体制、訪問エリア、会計資料、資金繰り、借入返済予定等に基づく個別検証が必要です。

執筆者:MKマネジメント代表 小坂 真義(中小企業診断士・薬剤師)