2026/7/26 05:11
報酬改定と収益計画
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調剤薬局
MKマネジメント|認定経営革新等支援機関(ID:109627000610)
調剤薬局の成長戦略や経営改善策を考えるとき、在宅業務の拡大は有力な選択肢の一つです。
2025年3月に厚生労働省の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」は、在宅医療における薬剤提供のあり方について議論を取りまとめました。2026年度診療報酬改定でも、薬局による在宅医療提供体制を促す方向で、在宅薬学総合体制加算や訪問薬剤管理指導に関する評価が見直されています。
ただし、政策上重要な業務であることと、個別の調剤薬局にとって投資採算が合うことは別問題です。
金融機関が融資や経営改善計画を検討する際に重要なのは、在宅業務へ積極的に取り組んでいるかどうかではありません。
在宅業務を拡大した結果として、継続的な利益とキャッシュフローを生み、返済力が高まるかどうかです。
在宅患者が増えれば売上は増える可能性があります。一方で、薬剤師の追加勤務や採用、移動、時間外対応、ICT、車両・交通費などのコストも増えます。既存の外来業務へ影響が出れば、在宅部門だけではなく店舗全体の収益性が変わることもあります。
本記事では、制度上の細かな算定手順ではなく、金融機関が調剤薬局の在宅拡大計画を読む際に必要となる収益性・人員体制・患者受入れの確度・訪問効率・資金繰り・返済力を中心に整理します。
- 結論|在宅業務はすべての薬局が積極拡大すべきとは限らない
- 1.なぜ調剤薬局で在宅業務が重要になっているのか
- 高齢化・在宅需要の存在だけでは売上計画の根拠にならない
- 在宅対応の量には地域差がある
- 2.在宅業務の収益構造は加算だけでは説明できない
- 売上が増えても返済力が同じということはあり得る
- 在宅1患者当たりの一定単価を置きすぎない
- 3.個人宅と高齢者施設等では事業構造が異なる
- 個人宅中心の在宅
- 高齢者施設等への対応
- 個人宅と施設を優劣で判断しない
- 4.在宅業務では「移動」が収益性を大きく左右する
- 同じ30人でも採算は違う
- 患者数ではなく「訪問密度」を見る
- 5.在宅業務の最大の制約になりやすいのは人員体制
- 厚生労働省資料でも薬剤師数と在宅対応に差がみられる
- 既存人員で対応できる場合
- パート勤務時間の追加等で対応できる場合
- 常勤薬剤師の追加採用が必要な場合
- 特定薬剤師への属人化
- 外来業務との機会費用
- 6.患者受入れの見通しは「地域需要」より具体的に見る
- 需要が売上になるまでには経路がある
- 既存実績から増加率を見る
- 在宅患者は増えるだけではない
- 連携先の存在と集中度
- 7.2026年度改定の在宅薬学総合体制加算は「事業計画の一要素」
- 100点という数字だけで投資判断しない
- 制度変更への耐性
- 8.在宅業務は立ち上がりまでの資金繰りが重要
- Phase 1|体制整備
- Phase 2|患者受入れ開始
- Phase 3|訪問件数の増加
- Phase 4|部門利益の改善
- Phase 5|キャッシュフローへの貢献
- 黒字化までの期間は一律に置かない
- 9.在宅部門の利益は「既存人員で吸収できる範囲」を超えると変わりやすい
- 初期段階
- キャパシティに近づく段階
- 拡大後
- 10.在宅業務を積極的に拡大しやすい薬局
- 既存の経営資源を活用できるか
- 外来依存を分散できるか
- 11.在宅拡大を慎重に見たい薬局
- 患者受入れより先に固定費が増える
- 患者増加の根拠が弱い
- 在宅を担える薬剤師が1人しかいない
- 訪問エリアが広い
- 一施設への依存が高い
- 加算取得が利益計画の前提
- 現在の外来業務が既に逼迫している
- 12.在宅拡大で起こりやすい8つの計画上の失敗
- 1.患者受入れ前に常勤薬剤師を採用する
- 2.加算増収をそのまま利益へ加える
- 3.移動時間をゼロに近く見る
- 4.外来への影響を考えない
- 5.一人の薬剤師に在宅機能が集中する
- 6.一施設の患者数を永続すると考える
- 7.ICT・車両等の周辺費用を小さく見る
- 8.売上増加に伴う資金需要を見ない
- 13.Baseケースだけではなく下振れシナリオを見る
- 患者受入れが6か月遅れる
- 薬剤師採用が遅れる
- 既存薬剤師が離職する
- 訪問距離が長くなる
- 加算収入が計画を下回る
- 施設案件が終了する
- 複合下振れ
- 14.金融機関が見るべきなのは売上より返済前キャッシュフロー
- 売上増加率よりキャッシュ創出力
- 返済力を高める在宅投資
- 15.融資使途によって確認ポイントは変わる
- 人材採用のための資金
- 車両・ICT等の設備投資
- 運転資金
- M&A資金
- 16.M&Aでは在宅売上の「再現性」を見る
- 在宅担当薬剤師が残るか
- 連携先との関係が維持されるか
- 患者集中リスク
- 報酬・届出の前提が維持されるか
- 17.在宅業務のモニタリングでは財務と事業KPIをつなげる
- KPIを増やしすぎない
- 18.外来と在宅を別事業のように見すぎない
- 共通費をどう見るか
- 外来の余力を使える薬局は初期採算が良く見えやすい
- 在宅拡大で外来側の費用が増えていないか
- 外来と在宅の組合せは店舗ごとに異なる
- 19.在宅売上の集中リスクを確認する
- 一施設に患者が集中しているケース
- 一医療機関・一紹介元への依存
- 特定薬剤師への依存も収益集中の一種
- 集中しているから融資できないわけではない
- 20.在宅拡大では運転資金も確認する
- 売上が増える前に給与は発生する
- 在庫が増える可能性
- 未収金と入金時期
- 仕入支払との時間差
- 運転資金の増加を借入で支える場合
- 21.投資は一度に行うより段階的に判断できる場合がある
- Stage 1|既存人員・既存設備で小規模に受け入れる
- Stage 2|勤務時間・役割分担を調整する
- Stage 3|追加採用・設備投資を行う
- Stage 4|複数店舗・地域で拡大する
- 段階投資の意味
- 22.ケース別に見る在宅拡大の判断
- ケースA|外来減少で人員に余力がある薬局
- ケースB|患者依頼はあるが人員不足の薬局
- ケースC|大型施設案件を受ける計画
- ケースD|在宅拡大を経営改善計画の柱にする薬局
- ケースE|M&Aで在宅に強い薬局を取得するケース
- 23.融資実行後・計画開始後に見るべき変化
- 患者受入れが計画を下回っている
- 売上は計画どおりだが残業が増えている
- 患者数は増えているが現預金が減る
- 一施設の比率が上昇している
- 加算等の前提が変わる
- モニタリングの目的は計画を守らせることではない
- 24.在宅拡大はPL・BS・CFのどこに表れるのか
- PL|売上だけでなく追加費用を見る
- BS|在庫・未収金・固定資産が増えることがある
- CF|最終的に返済へ回せる資金を見る
- 売上成長と資金繰り悪化が同時に起こるケース
- 経営改善計画で在宅拡大を使う場合
- 25.夜間・休日・緊急対応を収益計画から切り離さない
- 計画訪問だけで人員を組まない
- 待機時間も経営コストになり得る
- 1人で夜間対応を抱えない体制か
- 地域連携を活用できる場合もある
- 緊急対応力は収益だけでなく事業継続性の問題
- 26.金融機関から経営者へ確認したい10の質問
- 1.現在の在宅患者数・訪問件数はどの程度ですか
- 2.今後どこまで増やす計画ですか
- 3.増加する患者はどこから受け入れる予定ですか
- 4.個人宅と施設の構成はどう変わりますか
- 5.現在の人員で対応できますか
- 6.在宅対応が特定薬剤師へ集中していませんか
- 7.在宅拡大による年間増収と追加費用はいくらですか
- 8.患者受入れ・採用が半年遅れた場合はどうなりますか
- 9.加算等を収益計画に含めている場合、その前提は確認されていますか
- 10.返済後も必要な現預金を維持できますか
- 27.在宅拡大の判断を3つに分ける
- 積極的に拡大しやすい
- 条件付きで拡大する
- 慎重に判断する
- 28.専門的な検証を検討したいケース
- 29.MKマネジメントの支援範囲
- FAQ|調剤薬局の在宅業務拡大でよくある質問
- Q1.在宅業務は儲かりますか
- Q2.在宅患者は何人いれば採算が合いますか
- Q3.個人宅と施設ではどちらが収益性が高いですか
- Q4.在宅を増やすには薬剤師を採用する必要がありますか
- Q5.在宅薬学総合体制加算2を取れば利益は増えますか
- Q6.車は必ず必要ですか
- Q7.在宅拡大は資金繰りを悪化させることがありますか
- Q8.加算を取らなくても在宅を拡大する意味はありますか
- Q9.在宅に強い薬局をM&Aすれば、その売上は維持できますか
- Q10.在宅事業が赤字なら撤退すべきですか
- Q11.外来中心の既存薬局と、在宅業務の比重が高い薬局では考え方が違いますか
- Q12.在宅拡大に必要な融資額はどのように考えますか
- Q13.金融機関はどの数字を最も重視すべきですか
- Q14.どの段階で専門的な検証を検討すべきですか
- Q15.在宅患者が増えれば薬剤師1人当たりの生産性も上がりますか
- Q16.施設から大口の依頼が来た場合は積極的に受けるべきですか
- Q17.在宅拡大のために先に人を採用するのは危険ですか
- Q18.在宅業務の採算は店舗別に見るべきですか
- 在宅拡大の目的は売上を増やすことではなく、返済力を高めること
- 金融機関・専門家の皆様へ
- 関連コラム
- 主な参考資料
- 免責事項
結論|在宅業務はすべての薬局が積極拡大すべきとは限らない
在宅業務は、地域医療における薬局機能を高めるとともに、外来処方箋だけに依存しない収益構造を作る可能性があります。
ただし、在宅へ取り組めば自動的に利益が増えるわけではありません。
金融機関から見た判断の流れは、次のように整理できます。
在宅患者・在宅関連処方箋が増える
↓
在宅関連の収入が増える
↓
調剤、訪問、記録、連携に必要な業務量も増える
↓
必要に応じて人件費・移動費・設備費等が増える
↓
差し引きで営業利益とキャッシュフローがどれだけ残るか
↓
既存借入を含めた返済力が高まるか
特に、既存人員に一定の余力があり、患者受入れの具体的な見通しがあり、訪問エリアが効率的で、既存設備を活用できる薬局では、追加固定費を抑えながら在宅業務を拡大できる可能性があります。
反対に、
患者受入れの見通しが弱い
常勤薬剤師の追加採用が前提
訪問先が広域に分散する
特定の薬剤師に業務が集中する
特定施設への依存度が高い
加算取得を前提にしなければ採算が合わない
既に資金繰りが厳しい
といった状況では、投資時期や拡大ペースを慎重に検討する必要があります。
在宅患者数が増えるかではなく、在宅拡大後に返済前キャッシュフローが増えるか。
これが金融機関にとって最も重要な確認ポイントです。
1.なぜ調剤薬局で在宅業務が重要になっているのか
在宅医療では、医師、歯科医師、訪問看護師、薬剤師、介護支援専門員など、複数職種が連携して患者の療養を支えます。
薬局・薬剤師には、患者宅等への薬剤提供だけでなく、服薬状況の確認、残薬・副作用等の把握、医師等への情報提供、医療用麻薬や医療材料への対応、急な状態変化時の薬剤提供など、地域によってさまざまな役割が求められます。
厚生労働省は2025年3月、在宅医療における薬剤提供のあり方について検討会の議論を取りまとめ、今後も具体的な方策を踏まえて検討を進める方針を示しました。
2026年度調剤報酬改定では、在宅薬学総合体制加算1が30点、加算2は訪問形態等に応じ100点・50点とされ、在宅実績や人員体制等を含む評価が見直されています。
制度面から見ても、在宅対応は薬局に求められる機能の一つとして位置付けが強まっています。
しかし、経営判断では、政策の方向性をそのまま投資判断に置き換えるべきではありません。
高齢化・在宅需要の存在だけでは売上計画の根拠にならない
地域に高齢者が多い、在宅医療が拡大している、といったマクロ環境は市場の存在を示す材料にはなります。
一方で、個別薬局の売上になるためには、
医療機関や訪問看護事業所等から相談がある
居宅介護支援事業所等との連携がある
既存患者が在宅療養へ移行する
施設等から具体的な依頼がある
地域で受入れ可能な薬局が不足している
など、薬局ごとの患者受入れ経路が必要です。
したがって、事業計画に「地域の高齢化を背景に在宅患者を50人増やす」とだけ書かれていても、返済力を判断するには不十分です。
地域需要があることと、自社がその需要を受け入れられることを分けて考える必要があります。
在宅対応の量には地域差がある
厚生労働省がNDBデータを用いて整理した資料では、在宅薬学総合体制加算の届出薬局における在宅患者訪問薬剤管理指導料1の算定件数には地域差が確認されています。
これは、同じ在宅に取り組む薬局であっても、地域特性によって対応量が同じではないことを示唆します。
全国平均や他地域の成功事例だけを基準に患者数計画を置くのではなく、対象地域の医療・介護資源、人口密度、訪問距離、競合状況、紹介経路を確認する方が実務的です。
2.在宅業務の収益構造は加算だけでは説明できない
在宅業務の採算を考えるとき、在宅薬学総合体制加算だけに注目すると全体像を見誤ります。
在宅業務に関係する収入には、概念的に次のようなものがあります。
在宅患者に係る調剤収入
医療保険における訪問薬剤管理に関する収入
介護保険における居宅療養管理指導等
在宅薬学総合体制加算
患者の状態や対応内容に応じたその他の評価
一方、費用側では、
薬剤師人件費
採用費・派遣費
訪問前後の業務時間
移動に伴う人件費
車両・燃料・駐車場・交通費
ICT・通信・モバイル端末
研修
時間外・休日対応
医療材料等の在庫
記録・報告・多職種連携の工数
などが発生します。
在宅拡大で増え得るもの | 主な内容 |
|---|---|
収入 | 調剤、訪問管理、介護、加算等 |
変動的な費用 | 訪問ごとの移動・消耗品・業務時間等 |
人件費 | 既存勤務増、パート増員、常勤採用、派遣等 |
固定費・準固定費 | ICT、車両、研修、待機体制等 |
運転資金 | 在庫・未収金等 |
初期投資 | 車両、端末、機器、環境整備等 |
金融機関が確認したいのは、在宅関連売上がいくら増えるかだけではありません。
その売上を実現するために必要な追加コストを控除した後、どれだけのキャッシュが残るかです。
売上が増えても返済力が同じということはあり得る
例えば、在宅関連収入が年間600万円増える計画でも、その実現に、
常勤薬剤師の採用
採用手数料
車両追加
ICT費
時間外対応
などで年間500万円以上の追加負担が発生するなら、増収幅と返済力の改善幅は大きく異なります。
反対に、既存人員の余力を使い、既存車両・既存システムで対応できる薬局では、同じ増収額でも利益への寄与が大きくなる可能性があります。
在宅1患者当たりの一定単価を置きすぎない
患者の保険区分、訪問頻度、居住形態、処方内容、対応内容によって収益は変わります。
したがって、
在宅患者1人当たり年間○万円
50人いれば黒字
といった一律の計画には注意が必要です。
金融機関が必要なのは詳細な診療報酬計算ではなく、
計画上の収入が、実際の患者構成と算定実績に基づいているか
という確認です。
3.個人宅と高齢者施設等では事業構造が異なる
在宅業務を評価するとき、「在宅患者○人」と一括りにすると実態が見えにくくなります。
個人宅中心の在宅と、高齢者施設等への対応では、収益だけでなく訪問効率、患者集中、関係先への依存度などが異なります。
個人宅中心の在宅
個人宅では、患者ごとに訪問先が異なるため、
移動ルート
移動時間
駐車環境
予定変更
患者ごとの対応時間
が生産性に影響します。
一方、患者が店舗周辺に一定密度で存在し、訪問時間を効率的に組める場合には、訪問件数を積み上げやすくなることがあります。
2026年度改定では、在宅薬学総合体制加算2について、単一建物診療患者または単一建物居住者が1人の場合を100点、それ以外を50点とする区分が設けられました。
ただし、この点数差だけで個人宅の方が「儲かる」と判断することはできません。
個人宅では移動負担が大きくなりやすく、1日の訪問可能件数が変わるからです。
高齢者施設等への対応
同一建物内で複数患者へ対応する場合、移動面では効率を高めやすいことがあります。
一方で、
一施設への患者集中
施設側の運営方針変更
連携医療機関の変更
薬局の切替え
一度に多くの処方へ対応する人員負荷
など、別のリスクがあります。
施設患者数が多いことだけで安定的な収益と判断せず、その収益が特定の一施設へどの程度集中しているかも確認したいところです。
個人宅と施設を優劣で判断しない
金融機関として重要なのは、個人宅か施設かの優劣を決めることではありません。
それぞれについて、
収益の再現性
訪問効率
人員負荷
連携先集中
下振れ時の影響
を確認します。
個人宅と施設を適度に組み合わせることでリスクが分散する薬局もあれば、地域特性から一方へ特化した方が効率的な薬局もあります。
4.在宅業務では「移動」が収益性を大きく左右する
外来調剤と在宅業務の大きな違いの一つは、薬剤師が患者のもとへ移動することです。
厚生労働省の薬剤師需給調査では、2020年9月の在宅関連業務について、回答者1,058人における1訪問当たりの訪問先での平均業務時間は26分59秒、平均往復移動時間は25分34秒と報告されています。
この調査は2020年の実態であり、現在のすべての薬局へそのまま当てはめる数字ではありません。
ただし、金融機関が在宅事業を読むうえで重要なことを示しています。
訪問先での業務時間と同じように、移動にも薬剤師の時間が使われるという点です。
同じ30人でも採算は違う
例えば、在宅患者30人を担当する場合でも、
店舗から短時間で訪問できる範囲へ集中
片道20~30分以上かかる地域へ分散
では、必要勤務時間が大きく異なります。
さらに、
市街地で駐車に時間がかかる
山間部で走行距離が長い
患者の訪問希望時間が集中する
医師の往診後に急きょ訪問する
といった条件でも効率は変わります。
患者数ではなく「訪問密度」を見る
在宅拡大計画を確認するときは、
どのエリアの患者が増えるのか
既存訪問先の近隣なのか
施設・個人宅の比率
1日の移動負担
追加車両が必要か
を確認すると、患者数だけより採算の実態を把握しやすくなります。
詳細なルート設計や1時間当たり生産性の計算は個別分析になりますが、金融機関として訪問距離を無視した事業計画になっていないかは確認する価値があります。
5.在宅業務の最大の制約になりやすいのは人員体制
在宅事業の収益性を見るうえで、特に重要なのが薬剤師の人員体制です。
薬剤師が患者宅等へ訪問している間も、店舗では外来処方箋への対応を続ける必要があります。
在宅業務では、患者宅に滞在している時間だけでなく、
訪問前の処方内容・薬歴確認
調剤・監査
往復の移動
患者・家族への対応
医師、訪問看護師、ケアマネジャー等との連携
訪問後の記録・報告
緊急時・時間外対応
なども発生します。
そのため、在宅患者が増えたときに最初に確認したいのは、現在の勤務体制でどこまで対応できるかです。
厚生労働省資料でも薬剤師数と在宅対応に差がみられる
厚生労働省がNDBデータ等を用いて2025年に整理した資料では、在宅、夜間休日、高額薬剤、小児、麻薬等に関連する処方箋への対応について、常勤換算薬剤師数2人以下の薬局では実施割合が低く、5人超の薬局では高い傾向が示されています。
これは薬剤師数が多ければ自動的に在宅業務が成功するという因果関係を示すものではありません。
しかし、在宅対応には人的キャパシティが関係することを考える材料にはなります。
既存人員で対応できる場合
既存の勤務体制に余力があり、外来業務へ大きな影響を与えずに在宅件数を増やせる場合は、追加固定費を抑えやすくなります。
在宅拡大による増収を利益へつなげやすいケースです。
ただし、現在の残業や休暇取得状況を無視して「余力あり」と判断しないことが重要です。
表面上の人員数が足りていても、
有給休暇を十分取得できていない
管理薬剤師が長時間勤務している
応援勤務で店舗を回している
といった状態なら、実質的な余力は小さい場合があります。
パート勤務時間の追加等で対応できる場合
特定曜日や時間帯だけ人員を増やせる場合には、常勤採用より固定費を抑えられる可能性があります。
一方で、訪問時間が一定しない、緊急対応がある、夕方の外来ピークと重なるなどの事情があれば、パート勤務だけで対応しきれない場合があります。
常勤薬剤師の追加採用が必要な場合
在宅拡大のために常勤薬剤師を採用する場合は、計画のリスクが一段上がります。
患者数が予定どおり増えなくても、
給与
法定福利費
採用費
教育期間の人件費
は発生します。
採用できるまで派遣薬剤師を利用するなら、その費用も必要です。
したがって、
患者受入れが進んだら採用するのか、採用してから患者受入れを進めるのか
によって資金繰りリスクが異なります。
特定薬剤師への属人化
在宅業務では、特定の薬剤師が、
患者・家族との関係
医師との連携
訪問看護師との連携
ケアマネジャーとの連携
施設との調整
を一手に担っている場合があります。
この場合、その薬剤師の退職は単なる1人分の人員減ではなく、在宅収益の継続性へ影響する可能性があります。
人員数だけでなく、在宅業務を複数人で継続できる体制かを確認することが重要です。
外来業務との機会費用
在宅患者が増えても、薬剤師が訪問へ出ることで外来対応力が落ち、待ち時間の増加や営業時間内の人員不足が発生すれば、店舗全体では期待した利益が残らないことがあります。
在宅部門の増収だけを見るのではなく、既存外来業務へ与える影響まで含めて考えます。
6.患者受入れの見通しは「地域需要」より具体的に見る
在宅業務への投資計画では、患者数の増加が売上計画の基礎になります。
ところが、計画上の患者数が、
高齢化が進むため増える
地域で在宅ニーズが高いため増える
という説明だけで置かれているケースには注意が必要です。
需要が売上になるまでには経路がある
実際に薬局が在宅患者を受け入れるには、
既存患者の在宅療養移行
医療機関からの相談
訪問看護事業所からの相談
居宅介護支援事業所等との連携
施設からの相談
地域の薬剤師会等を通じた連携
など、具体的な接点が必要です。
金融機関が確認したいのは営業方法ではなく、
計画上の患者増加につながる具体的な依頼経路が存在するかです。
既存実績から増加率を見る
既に在宅業務を行っている薬局なら、
過去12か月の患者数推移
新規受入れ数
終了患者数
紹介・相談件数
訪問件数
などが、将来計画の参考になります。
例えば現在10人の薬局が翌年100人を計画する場合と、既に80人対応している薬局が100人を計画する場合では、同じ100人でも前提の強さが違います。
在宅患者は増えるだけではない
在宅療養では、入院、施設入所、死亡、治療方針変更等によって薬局の対応が終了することもあります。
したがって、
新規受入れ数だけでなく、入替りを含めたネットの患者数
を見る必要があります。
患者数を毎月累積するだけの計画は、実績と乖離しやすくなります。
連携先の存在と集中度
複数の医療機関・介護関係者から安定的に相談がある薬局と、特定の医療機関・施設から大半の患者紹介を受けている薬局では、売上の安定性が異なります。
患者数だけでなく、
在宅収益がどの連携先へ依存しているか
も事業性評価の一つの論点になります。
7.2026年度改定の在宅薬学総合体制加算は「事業計画の一要素」
2026年度改定では、在宅薬学総合体制加算の評価が見直されました。
通常の点数は次のとおりです。
区分 | 2026年度 |
在宅薬学総合体制加算1 | 30点 |
在宅薬学総合体制加算2イ | 100点 |
在宅薬学総合体制加算2ロ | 50点 |
厚生労働省資料では、加算1について一定の在宅実績等が、加算2についてはさらに個人宅等への実績、人員、麻薬・無菌・小児在宅等に関する実績、高度管理医療機器等の販売業許可などが示されています。
本記事では制度判定の詳細には踏み込みません。
金融機関として重要なのは、
現在どの加算を届け出ているか
将来計画にどの加算を織り込んでいるか
その前提が確認されているか
取得・維持のために追加費用が発生するか
です。
100点という数字だけで投資判断しない
加算2イの100点は、1件につき1,000円に相当します。
しかし、加算だけで在宅事業の採算は決まりません。
仮に加算収入が増えても、そのために常勤薬剤師の採用が必要なら、人件費の方が大きくなることがあります。
在宅薬学総合体制加算は、在宅事業の収益性を高める要素ではあっても、事業全体の採算を保証するものではありません。
制度変更への耐性
診療報酬・調剤報酬は改定されます。
加算取得を除けば赤字で、特定の加算が維持できなければ返済計画が崩れる場合は、制度変更への耐性が弱い計画です。
金融機関としては、加算がなくても一定の利益が残るのか、加算が下振れした場合の計画があるのかを確認する価値があります。
8.在宅業務は立ち上がりまでの資金繰りが重要
在宅事業の最終的な採算が合うとしても、患者受入れが増えるまでに先行費用が発生すれば、その期間の資金繰りが問題になります。
在宅拡大は次のような段階で考えると整理しやすくなります。
Phase 1|体制整備
人員配置
必要に応じた採用
研修
車両・ICT等の準備
地域連携の準備
この段階では費用が先に出ることがあります。
Phase 2|患者受入れ開始
相談・依頼を受けて患者対応を開始します。
患者数が少ない段階では、追加固定費を回収できないことがあります。
Phase 3|訪問件数の増加
患者数・訪問件数が増え、収入が積み上がります。
ただし、人員の追加が必要になる境界を超えると、再び固定費が増える可能性があります。
Phase 4|部門利益の改善
在宅関連収入から追加人件費、移動・運営費を控除して部門利益が安定します。
Phase 5|キャッシュフローへの貢献
初期投資や運転資金を含めても、在宅拡大が全社キャッシュフローへ継続的に寄与する状態です。
黒字化までの期間は一律に置かない
「在宅は1年で黒字になる」など一律の標準期間を置くことは適切ではありません。
既存人員で始める薬局と、新規採用・新規患者開拓から始める薬局では立ち上がりが違います。
金融機関が見るべきなのは、
いつ黒字になるかという一般論ではなく、対象薬局の計画上、費用が先行する期間をどの資金で賄うか
です。
9.在宅部門の利益は「既存人員で吸収できる範囲」を超えると変わりやすい
在宅拡大では、患者数の増加と費用増加が必ずしも比例しません。
初期段階
既存人員と既存設備に余力があれば、患者数が少し増えても追加固定費はあまり増えません。
この段階では、増収が利益へ反映されやすくなります。
キャパシティに近づく段階
訪問が増え、外来業務と在宅業務の両立が難しくなると、
パート勤務時間増
常勤採用
車両追加
管理者・事務業務増
などが必要になります。
この時点で費用構造が変わります。
拡大後
患者数がさらに増えれば、追加した人員・設備を有効活用し再び利益が増える場合があります。
つまり、在宅事業の採算は単純な直線ではなく、
人員・設備の追加タイミングで段差が生じる
ことがあります。
金融機関が確認したいのは、詳細な損益分岐計算ではなく、
いつ追加採用が必要になる計画か
採用後にどれだけ患者数が必要か
受入れが遅れても資金を維持できるか
です。
10.在宅業務を積極的に拡大しやすい薬局
在宅業務が返済力の改善につながりやすいのは、次のような条件がそろっている薬局です。
状況 | 経営上の意味 |
既存人員に対応余力がある | 追加固定費を抑えやすい |
既に在宅患者・連携先がある | 売上立上がりの不確実性が小さい |
訪問先が一定エリアに集中 | 移動効率を確保しやすい |
複数薬剤師が在宅対応可能 | 属人化リスクを抑えやすい |
既存車両・ICTを活用可能 | 初期投資を抑えやすい |
加算を除いても採算が見込める | 制度変更への耐性がある |
患者・連携先が分散 | 一施設・一紹介元への依存を抑えやすい |
下振れ時にも現預金を維持 | 借入返済への影響が限定的 |
既存の経営資源を活用できるか
在宅拡大が収益性を高めやすいのは、追加投資が小さい場合です。
既に、
在宅経験のある薬剤師
地域連携
車両
ICT
営業時間外対応体制
があれば、新規投資額を抑えられる場合があります。
外来依存を分散できるか
門前医療機関への依存度が高い薬局では、在宅事業が収益源の分散につながる可能性があります。
ただし、在宅側でも特定施設・特定医療機関への依存が高まれば、リスクが移るだけです。
収益源の分散という観点では、外来と在宅の構成だけでなく、在宅の紹介元・連携先の分散も確認します。
11.在宅拡大を慎重に見たい薬局
患者受入れより先に固定費が増える
常勤採用、車両購入、システム導入等を先に行い、その後に患者を増やす計画では、売上が立ち上がるまで資金流出が続きます。
既に資金繰りが厳しい薬局では特に慎重な検討が必要です。
患者増加の根拠が弱い
地域人口や高齢化率だけを根拠に患者数を大幅に増やしている場合は、実際の相談・連携先を確認します。
在宅を担える薬剤師が1人しかいない
属人化が強い場合は、退職・休職・異動が事業収益へ直接影響する可能性があります。
訪問エリアが広い
患者数が増えても、移動時間が長くなれば薬剤師の実働時間を消費します。
一施設への依存が高い
施設との関係変更により、複数患者を一度に失う可能性があります。
加算取得が利益計画の前提
予定している加算を取得・維持できなければ利益がほとんど残らない計画は、制度前提と下振れ耐性の確認が必要です。
現在の外来業務が既に逼迫している
外来の残業や待ち時間が多い店舗へ在宅を追加すると、既存業務の生産性が悪化する可能性があります。
12.在宅拡大で起こりやすい8つの計画上の失敗
1.患者受入れ前に常勤薬剤師を採用する
採用自体が悪いわけではありません。
問題は、患者受入れが遅れた場合の固定費負担を計画していないことです。
2.加算増収をそのまま利益へ加える
加算取得のために追加人員や運営費が必要なら、純粋な利益改善額は小さくなります。
3.移動時間をゼロに近く見る
訪問先での対応だけを勤務時間として計算すると、人員不足につながる可能性があります。
4.外来への影響を考えない
訪問中に外来人員が不足し、残業や応援勤務が増えれば、店舗全体での利益は低下します。
5.一人の薬剤師に在宅機能が集中する
売上は組織に計上されても、実態は個人の関係性・経験に依存している場合があります。
6.一施設の患者数を永続すると考える
施設運営者、医療機関、患者・家族等の事情により取引関係が変わる可能性があります。
7.ICT・車両等の周辺費用を小さく見る
個々の費用は小さく見えても、人件費と合わせると採算へ影響します。
8.売上増加に伴う資金需要を見ない
事業拡大で在庫・未収金が増えれば、PLが黒字でも資金が先に必要になる場合があります。
13.Baseケースだけではなく下振れシナリオを見る
在宅業務の拡大計画では、Baseケースが計画どおりに進むことを前提に返済額を決めない方が安全です。
特に確認したいのは次のようなシナリオです。
患者受入れが6か月遅れる
人件費や車両費等が先行している場合、利益とキャッシュが計画を下回ります。
薬剤師採用が遅れる
採用できないため患者を受けられない場合と、派遣で対応して費用が増える場合があります。
既存薬剤師が離職する
追加患者を増やす前に既存人員の補充が必要になり、計画が後ろ倒しになる可能性があります。
訪問距離が長くなる
想定した患者数は受けられても、1日当たり訪問可能件数が伸びない可能性があります。
加算収入が計画を下回る
制度上の前提や実績が想定と異なる場合、収入が減ります。
施設案件が終了する
患者集中度が高い場合、一件の契約・連携変更の影響が大きくなります。
複合下振れ
実務では、採用遅延と患者受入れ遅延が同時に起きるなど、複数の要因が重なることがあります。
一つの下振れで返済不能になる計画なら、返済力の余裕は小さいと考えた方がよいでしょう。
14.金融機関が見るべきなのは売上より返済前キャッシュフロー
在宅拡大による効果を金融機関が評価する場合、営業利益だけで終わらせないことが重要です。
概念的には、
在宅業務による増収
- 薬剤仕入等の増加
- 追加人件費
- 移動・ICT・その他運営費
= 営業面の改善
さらに、
- 設備投資
- 在庫・未収金等の運転資金増加
- その他の資金支出
= 在宅拡大によるキャッシュフローへの寄与
となります。
そのうえで既存事業と合わせ、
元金返済
利息
税金
設備更新
必要運転資金
を確保した後に、現預金を維持できるかを確認します。
売上増加率よりキャッシュ創出力
在宅売上が30%増えたという事実だけでは、返済力が30%高まったとはいえません。
人件費が先に増えた場合や、運転資金需要が大きい場合には、利益・キャッシュの伸びは売上より小さくなります。
返済力を高める在宅投資
金融機関として評価しやすいのは、
患者受入れの根拠がある
人員計画が具体的
増収と追加費用を両方計上
立上がり資金を確保
下振れを織り込む
返済後も必要現預金を維持
という計画です。
15.融資使途によって確認ポイントは変わる
人材採用のための資金
薬剤師採用を目的とする場合は、
採用後の患者受入れ見通し
採用までの期間
採用費
教育期間
採用できなかった場合
を確認します。
車両・ICT等の設備投資
設備導入によって何が改善するのかを確認します。
車両購入だけでは売上は生まれません。
患者数・訪問効率・人員体制と設備投資がつながっているかが重要です。
運転資金
患者受入れの拡大に伴い人件費・在庫等が先行する場合には、黒字化までの資金需要を確認します。
M&A資金
在宅に強い薬局の買収では、過去売上だけでなく、買収後もその在宅収益を維持できるかが重要です。
人員、患者構成、連携先、制度上の前提を含めて考えます。
16.M&Aでは在宅売上の「再現性」を見る
在宅患者を多数抱える薬局は魅力的に見えることがあります。
しかし、買収後も同じ収益が残るとは限りません。
在宅担当薬剤師が残るか
在宅関係を特定の薬剤師が担っている場合、その人の離職が収益へ影響します。
連携先との関係が維持されるか
医療機関・施設等との関係が、法人ではなく特定の経営者や薬剤師の関係性に依存していないかを確認します。
患者集中リスク
一つの施設へ在宅売上の大半が集中している場合、関係変更時の下振れが大きくなります。
報酬・届出の前提が維持されるか
M&A後の人員や運営体制によって、従来の算定前提が変わる可能性があります。
詳細な制度確認が必要な場合は専門的な検証が必要です。
なお、開設者変更等に伴う保険薬局の指定については、別記事「保険薬局の遡及指定」で解説します。
17.在宅業務のモニタリングでは財務と事業KPIをつなげる
融資後・計画実行後は、在宅売上だけを確認するより、先行指標と財務結果を組み合わせると計画の遅れを把握しやすくなります。
領域 | 確認例 |
患者受入れ | 在宅患者数、新規受入れ、終了患者 |
業務量 | 月間訪問件数 |
連携 | 相談・依頼の発生状況 |
人員 | 在宅対応者数、採用状況、離職 |
移動 | 訪問エリアの拡大、車両追加の有無 |
収益 | 在宅関連売上 |
費用 | 追加人件費、移動・ICT等 |
利益 | 在宅拡大による利益への寄与 |
資金 | 現預金、運転資金 |
返済 | 計画返済後の資金余力 |
KPIを増やしすぎない
金融機関が日々の薬局運営を管理する必要はありません。
返済計画に影響する重要前提だけをモニタリングします。
例えば採用が計画の前提なら採用進捗、患者増加が前提なら患者受入れ、在宅利益が前提なら売上と追加人件費を見る、といった形です。
18.外来と在宅を別事業のように見すぎない
在宅業務の採算を評価するとき、在宅部門だけを切り出して黒字か赤字かを見る方法には限界があります。
多くの調剤薬局では、外来と在宅が同じ店舗、人員、調剤設備、在庫、システムを共有しています。
そのため、在宅の収入が増えたときに、どの費用が本当に追加されたのかを分けて考える必要があります。
共通費をどう見るか
例えば、既存の電子薬歴や調剤機器をそのまま在宅でも利用できる場合、在宅患者が少し増えたからといって設備費が同じ割合で増えるわけではありません。
一方、訪問件数が増えて、
モバイル端末
車両
在宅専用に近い勤務時間
事務作業
夜間・休日対応
が新たに必要になると、追加費用が目立つようになります。
金融機関として重要なのは、詳細な原価配賦を行うことではなく、
在宅拡大によって新たに発生する費用は何か
を把握することです。
外来の余力を使える薬局は初期採算が良く見えやすい
外来処方箋が減少傾向にあり、薬剤師の勤務時間に一定の余力がある店舗では、その時間を在宅へ振り向けることで追加人件費を抑えられる可能性があります。
この場合、在宅拡大は、
未利用だった人的キャパシティを新しい収益へ変える施策
として機能することがあります。
一方、既に外来業務が逼迫している店舗では、在宅を増やすために追加人員が必要となり、同じ患者数でも採算構造は変わります。
在宅拡大で外来側の費用が増えていないか
在宅担当者が店舗を離れることで、
他の薬剤師の残業が増える
応援勤務が増える
派遣薬剤師を入れる
事務職員へ業務が集中する
といった影響が出る場合があります。
これらは在宅部門の直接費として計上されていなくても、全社利益には影響します。
在宅拡大計画を読むときは、
在宅部門の数字は黒字でも、店舗全体の人件費が増えていないか
を確認します。
外来と在宅の組合せは店舗ごとに異なる
外来を中心としながら在宅を一定程度取り込む店舗もあれば、在宅の比重が高い店舗もあります。
どちらが正しいというものではありません。
重要なのは、
店舗の立地
人員
患者構成
地域連携
既存設備
に合った形で運営されているかです。
19.在宅売上の集中リスクを確認する
在宅売上が安定して見えても、その大半が一つの施設や一つの連携先から生まれている場合があります。
金融機関の事業性評価では、通常の企業で主要販売先への依存を見るのと同じように、在宅事業でも収益集中を見る価値があります。
一施設に患者が集中しているケース
例えば在宅患者100人のうち80人が同一施設に入居している場合、効率的な訪問が可能である一方、その施設との関係が変化したときの影響は大きくなります。
これは施設在宅が悪いという意味ではありません。
高い効率性と高い集中度が同時に存在する場合があるということです。
金融機関としては、
在宅患者全体のうち最大施設が占める割合
主要施設との取引期間
複数施設・個人宅への分散状況
施設以外の患者受入れ経路
などを確認すると、売上の安定性を考えやすくなります。
一医療機関・一紹介元への依存
個人宅中心でも、患者の大半が特定医療機関から紹介されている場合があります。
医師の退職、診療所の閉院、連携方針の変更などが生じた場合、将来の新規患者受入れへ影響する可能性があります。
在宅患者数が分散していても、患者流入経路が集中していることがあります。
特定薬剤師への依存も収益集中の一種
売上先だけではなく、人への集中も重要です。
特定の薬剤師が、
医療機関との関係
施設との調整
患者・家族との信頼関係
在宅業務のノウハウ
を担っている場合、その人が退職したときに収益基盤まで揺らぐ可能性があります。
売上、人員、連携先の3つの集中リスクを合わせて見ると、在宅事業の継続性をより把握しやすくなります。
集中しているから融資できないわけではない
集中度が高いこと自体で否定的に判断する必要はありません。
重要なのは、
集中の理由
関係の安定性
代替先
失った場合の資金繰り
が把握されているかです。
一施設への依存が高くても、十分な現預金があり、複数の新規連携先を育てている場合と、契約終了だけで返済不能になる場合ではリスクが異なります。
20.在宅拡大では運転資金も確認する
在宅業務の拡大は、PL上の利益だけでなくBS・キャッシュフローにも影響します。
売上が増える前に給与は発生する
新たに薬剤師を採用すれば、採用直後から給与や社会保険料等が発生します。
一方、患者数は徐々に増える場合があります。
そのため、最終的には黒字になる計画でも、立上がり期間には資金が減ることがあります。
在庫が増える可能性
在宅患者の処方内容によっては、店舗で保持する医薬品の種類・金額が変わる場合があります。
個別患者への安定供給のために在庫を増やせば、その分だけ資金が棚卸資産へ移ります。
特に高額薬等を扱う場合には、売上だけではなく在庫負担も確認したいところです。
未収金と入金時期
医療保険・介護保険に基づく収入は、サービス提供・調剤の時点と実際の入金時点が同じではありません。
事業が急速に拡大すれば、売上と同時に未収金も増える可能性があります。
ここでも、
利益が増えたから現金も同額増える
とは限りません。
仕入支払との時間差
医薬品の仕入代金、給与、家賃等の支払と、保険請求等の入金タイミングとの間に時間差があります。
在宅拡大によって売上が増える場合、必要運転資金も増える可能性があるため、
黒字化時点だけでなく、黒字化までの月次資金繰り
を見ることが重要です。
運転資金の増加を借入で支える場合
在宅拡大のために運転資金融資を行うケースでは、
資金が何に必要か
いつまで先行負担が続くか
いつからキャッシュが改善するか
改善後に借入を返せるか
を確認します。
目的が曖昧な運転資金ではなく、事業計画と資金使途がつながっている方が評価しやすくなります。
21.投資は一度に行うより段階的に判断できる場合がある
在宅拡大は、最初から大規模投資を行わなければ始められないケースばかりではありません。
薬局の現状によっては、段階的に拡大することでリスクを抑えられる場合があります。
Stage 1|既存人員・既存設備で小規模に受け入れる
まずは現在の人的余力で対応できる範囲を確認します。
ここでは、
外来への影響
実際の訪問時間
記録・連携工数
患者受入れ経路
を把握できます。
Stage 2|勤務時間・役割分担を調整する
患者数が増えた段階で、
パート勤務時間
店舗内の役割分担
訪問時間帯
事務支援
などを見直します。
Stage 3|追加採用・設備投資を行う
既存体制の上限が見え、患者受入れの見通しも立った段階で常勤採用や車両・ICT追加を検討します。
Stage 4|複数店舗・地域で拡大する
単店舗で運営モデルが安定した後、他店展開やエリア拡大を行う考え方です。
段階投資の意味
患者数が増える確度が不明な段階で固定費を一気に増やすより、実績を確認しながら投資を追加できれば、下振れ時の資金負担を抑えられる可能性があります。
金融機関としても、
次の投資判断を何の実績で行うのか
が明確な計画はモニタリングしやすくなります。
22.ケース別に見る在宅拡大の判断
ここでは、実在企業ではない架空ケースで考え方を整理します。
ケースA|外来減少で人員に余力がある薬局
外来処方箋が数年間減少し、常勤薬剤師の勤務に一定の余力があります。
一方、地域の訪問診療クリニックから在宅対応の相談が増えています。
このケースでは、新規採用を急がず既存人員で対応できる範囲から始めれば、追加固定費を抑えて新しい収益源を作れる可能性があります。
確認したいのは、
外来減少が今後も続くか
在宅患者受入れの具体性
訪問時間帯と外来ピークの重複
既存人員への負担
です。
在宅が外来減少を補完し、店舗全体の稼働率を高めるなら、返済力改善につながる可能性があります。
ケースB|患者依頼はあるが人員不足の薬局
医療機関から在宅患者の相談はあるものの、現在の店舗人員に余裕がありません。
常勤薬剤師を1人採用する計画です。
このケースでは、需要側の根拠は比較的強い一方、採用リスクがあります。
金融機関としては、
採用できる見通し
採用までの患者対応
採用費
患者受入れ開始時期
採用が遅れた場合の資金繰り
を確認します。
需要があるからといって、採用が成立する前提で返済計画を作りすぎないことが重要です。
ケースC|大型施設案件を受ける計画
一施設から多数患者への対応依頼があります。
訪問効率は良くなりやすい一方、患者・売上が一施設に集中します。
確認したいのは、
施設との関係性
必要人員
一時に発生する調剤業務量
契約・連携終了時の影響
他の在宅患者基盤
です。
効率性が高いことと、事業リスクが低いことは同じではありません。
ケースD|在宅拡大を経営改善計画の柱にする薬局
既存外来の利益が低下し、在宅拡大による増収を経営改善計画の中心に置いています。
常勤採用、車両追加、加算取得を同時に計画しています。
このケースでは複数の前提がそろわないと計画が成立しません。
患者受入れ
採用
制度上の前提
訪問効率
のどれかが遅れた場合を確認し、返済再開額に余裕があるかを見る必要があります。
ケースE|M&Aで在宅に強い薬局を取得するケース
買収対象薬局は在宅患者数が多く、利益も出ています。
しかし、在宅担当薬剤師と経営者が主要連携先との関係を担っています。
この場合、過去PLだけではなく、
人員継続
連携先継続
患者集中
買収後体制
制度上の前提
を確認します。
M&A後に在宅収益が落ちると、買収借入の返済力へ直接影響します。
23.融資実行後・計画開始後に見るべき変化
在宅拡大の計画は、融資実行時点で評価を終えるものではありません。
特に立上がり期は、財務数値に表れる前に事業KPIが変化します。
患者受入れが計画を下回っている
患者数が未達なら、
相談件数そのものが少ないのか
受入れ体制が整っていないのか
採用遅延なのか
連携先開拓が進んでいないのか
で今後の見通しが異なります。
売上は計画どおりだが残業が増えている
短期的に売上は達成していても、人員負荷が高ければ継続性に問題が生じる可能性があります。
追加採用や勤務体制変更が必要になれば、将来費用が増えます。
患者数は増えているが現預金が減る
在庫、人件費、設備投資、未収金等が原因で資金が先行している可能性があります。
PLだけではなく資金繰りを確認します。
一施設の比率が上昇している
売上拡大が成功していても、売上集中度が急上昇している場合は下振れリスクも大きくなります。
加算等の前提が変わる
制度上の前提が計画と異なる場合、収益予測を修正する必要があります。
モニタリングの目的は計画を守らせることではない
計画と実績が異なること自体が問題なのではありません。
重要なのは、
なぜ違ったか
返済力へどう影響するか
次の投資を進めるか
計画を修正するか
を早く判断できることです。
24.在宅拡大はPL・BS・CFのどこに表れるのか
在宅拡大を事業計画として評価するとき、売上高だけを見るより、PL・BS・CFのどこに影響するかを整理すると全体像を把握しやすくなります。
PL|売上だけでなく追加費用を見る
PLでは、在宅患者に係る調剤・訪問関連の収入や加算等が増える一方、
人件費
派遣費
採用費
車両・交通費
システム費
研修費
その他運営費
が増える可能性があります。
金融機関としては、
在宅売上が1,000万円増える
という説明だけではなく、
その1,000万円を生み出すために費用がいくら増えるのか
を見ることが重要です。
特に、新規採用を伴う場合は、売上の増加時期と人件費の発生時期がずれることがあります。
BS|在庫・未収金・固定資産が増えることがある
在宅拡大に伴い、
医薬品在庫
医療材料等
未収金
車両
ICT機器
などが増える場合があります。
これは、PL上で利益が出ていても現預金が増えない理由になります。
例えば、利益が500万円増えても、在庫・未収金・設備投資で同額以上の資金が必要なら、期末現預金は増えない可能性があります。
CF|最終的に返済へ回せる資金を見る
金融機関にとって最終的に重要なのは、在宅拡大による利益が現金として残るかです。
在宅部門が黒字でも、
初期投資
運転資金増加
税金
借入返済
を含めると資金余力が小さい場合があります。
そのため、
PL上の利益改善 → BS上の資金需要 → CF上の返済余力
という順番で見ると、在宅拡大の経営効果を誤解しにくくなります。
売上成長と資金繰り悪化が同時に起こるケース
成長投資では、売上が伸びているにもかかわらず資金繰りが悪化することがあります。
例えば、
常勤薬剤師を先に採用する
在宅患者を徐々に受け入れる
在庫・未収金が増える
車両・ICTへ投資する
売上は伸びるが現金は減る
という流れです。
この状態を「事業が失敗している」と即断する必要はありません。
計画どおりの先行投資なのか、想定を超える資金流出なのかを分けて考えます。
経営改善計画で在宅拡大を使う場合
経営改善中の薬局が在宅拡大を主要施策にする場合は、特に慎重です。
既に資金余力が小さい状態で固定費を増やすと、改善効果が出る前に資金不足になる可能性があります。
その場合、
投資を段階化する
既存人員で始める
患者受入れ実績を確認して次の投資へ進む
立上がり運転資金を確保する
といった設計が必要になることがあります。
金融機関としては、最終年度の黒字幅だけではなく、途中年度・途中月の現預金が維持できるかも確認します。
25.夜間・休日・緊急対応を収益計画から切り離さない
在宅医療では、通常の計画訪問だけでなく、患者の状態変化に伴う急な薬剤提供や関係職種との連携が必要になる場合があります。
厚生労働省は在宅医療における薬剤提供のあり方を検討する中で、夜間・休日を含む医薬品提供や関係職種との連携を課題として扱っています。
金融機関が個別の夜間対応手順まで確認する必要はありません。
ただし、在宅拡大によって時間外対応の負担が増える計画なら、その負担が人員費・継続性へ反映されているかを見る必要があります。
計画訪問だけで人員を組まない
毎月の定期訪問件数だけを使って必要人員を考えると、
急な処方変更
緊急訪問
夜間・休日の問い合わせ
医師・訪問看護との臨時連携
などの余力がなくなる可能性があります。
在宅件数を増やす計画では、100%の稼働を前提にしすぎないことが重要です。
待機時間も経営コストになり得る
実際に緊急訪問が発生しなかった日でも、休日・夜間対応のために勤務・待機体制を整える場合があります。
その体制に、
手当
シフト調整
代休
複数人でのバックアップ
が必要なら、在宅拡大のコストとして考える必要があります。
1人で夜間対応を抱えない体制か
夜間・休日対応が一人の管理薬剤師や在宅担当者へ集中すれば、短期的には低コストに見えることがあります。
一方、長期間続けば、
疲労
休暇取得困難
離職
業務継続リスク
につながる可能性があります。
金融機関としては、
現在は回っている
だけではなく、
その体制を数年間継続できるか
という視点が必要です。
地域連携を活用できる場合もある
薬局単独ですべての時間帯・機能を抱えるのではなく、地域で他薬局等と連携する仕組みが利用される場合があります。
ただし、実際にどの機能を連携で補完できるかは地域・制度・個別体制によって異なります。
経営計画では、
自社で担う範囲
連携で補完する範囲
自社に残る人員負担
が曖昧になっていないかを確認します。
緊急対応力は収益だけでなく事業継続性の問題
在宅患者が増えるほど、薬局が地域で担う責任も大きくなります。
そのため、在宅拡大は単なる売上施策ではなく、
必要なサービス水準を継続的に提供できる組織を作る投資
として考える必要があります。
必要な体制を削りすぎて短期利益を作る計画は、長期的な返済力を弱める可能性があります。
26.金融機関から経営者へ確認したい10の質問
1.現在の在宅患者数・訪問件数はどの程度ですか
計画値ではなく現在実績を確認します。
2.今後どこまで増やす計画ですか
患者数だけでなく、いつまでに増やすのかを確認します。
3.増加する患者はどこから受け入れる予定ですか
既存患者、医療機関、施設等、具体的な経路があるかを確認します。
4.個人宅と施設の構成はどう変わりますか
訪問効率・集中リスクを把握する材料になります。
5.現在の人員で対応できますか
追加勤務・採用が必要なら時期と費用を確認します。
6.在宅対応が特定薬剤師へ集中していませんか
離職時にも継続できるかを確認します。
7.在宅拡大による年間増収と追加費用はいくらですか
売上だけではなく差引効果を確認します。
8.患者受入れ・採用が半年遅れた場合はどうなりますか
資金繰りと返済への影響を確認します。
9.加算等を収益計画に含めている場合、その前提は確認されていますか
制度上の前提に大きく依存する計画か確認します。
10.返済後も必要な現預金を維持できますか
在宅拡大が最終的に返済力を高めるかを見る質問です。
27.在宅拡大の判断を3つに分ける
積極的に拡大しやすい
既存人員に余力がある
患者受入れ経路が具体的
訪問エリアが効率的
追加固定費が小さい
複数名で在宅対応できる
収益が特定施設へ過度に集中していない
加算を除いても採算が見込める
下振れしても資金繰りに余裕がある
この場合、在宅拡大は既存経営資源の稼働率を高め、返済力を強化する可能性があります。
条件付きで拡大する
一部追加採用が必要
連携先はあるが患者数はまだ少ない
初期投資が必要
一施設の比率が高い
黒字化まで一定の立上がり期間がある
この場合は、一度に大きく投資するのではなく、患者受入れや採用状況を確認しながら段階的に拡大する考え方があります。
慎重に判断する
患者受入れ経路が不明
大幅な追加採用が必要
在宅担当が一人に集中
広域訪問で移動負担が大きい
一施設へ収益が集中
加算取得が利益計画の前提
外来業務が既に逼迫
現状でも資金繰りが厳しい
この場合、在宅拡大そのものを否定するのではなく、投資時期・規模・順序を見直す余地があります。
28.専門的な検証を検討したいケース
次のような案件では、制度・人員・店舗損益・資金繰りを横断した検証が必要になることがあります。
在宅拡大を前提に新規融資を行う
経営改善計画の主要施策が在宅拡大
常勤薬剤師の追加採用が必要
加算取得・維持を利益計画へ大きく織り込む
個人宅と施設の構成が大きく変わる
一施設・一医療機関への依存度が高い
訪問距離が長く採算の把握が難しい
計画上は黒字だが資金繰りへの影響が不明
M&A後の在宅収益維持が返済計画の前提
人員計画と患者数計画が一致していない
在宅拡大による売上増が大きく見えても、人員費や運転資金を含めると返済余力がほとんど増えないことがあります。
逆に、既存の人員・設備・連携先を活用できる薬局では、比較的小さな追加投資で収益性を改善できる場合があります。
個別案件では、この差を見極めることが重要です。
29.MKマネジメントの支援範囲
MKマネジメントでは、金融機関・専門家からご相談いただいた調剤薬局案件について、在宅業務の拡大が返済力の改善につながる計画になっているかを整理します。
主な検討領域は次のとおりです。
在宅拡大による収益計画の妥当性
患者受入れ計画と実績の整合性
個人宅・施設の構成と事業リスク
現在の人員体制と追加採用の必要性
特定薬剤師への属人化
訪問エリアと業務負荷
在宅関連収入と追加コスト
加算等を含む制度上の前提
患者受入れ・採用遅延等の下振れ
店舗損益・全社損益への影響
資金繰り・返済計画への反映
M&A後の在宅収益の継続性
金融機関へ説明する際の論点整理
案件に応じて、管轄の地方厚生(支)局や、税理士、社会保険労務士、弁護士その他の関係専門家との確認・連携が必要になる場合があります。
MKマネジメントが調剤報酬上の算定可否や融資結果を保証するものではありません。
FAQ|調剤薬局の在宅業務拡大でよくある質問
Q1.在宅業務は儲かりますか
薬局によって異なります。
既存人員・既存設備で対応できる場合は追加固定費を抑えやすい一方、新規採用や車両等が必要な場合は患者数が増えるまで利益が出にくくなることがあります。
売上ではなく、追加費用を控除した利益とキャッシュフローで判断します。
Q2.在宅患者は何人いれば採算が合いますか
全国共通の人数基準は置けません。
個人宅・施設の構成、訪問距離、訪問頻度、患者の状態、人員体制、既存設備、加算等によって採算が異なるためです。
患者数だけでなく、業務量と追加費用を確認する必要があります。
Q3.個人宅と施設ではどちらが収益性が高いですか
一律には判断できません。
個人宅は訪問先が分散しやすく移動負担が大きくなる一方、2026年度改定では在宅薬学総合体制加算2について個人宅等への評価が区分されました。
施設では同一建物で複数患者へ対応できる場合がありますが、一施設への売上集中等のリスクがあります。
Q4.在宅を増やすには薬剤師を採用する必要がありますか
現在の人員余力によります。
既存人員で対応できる薬局もあれば、勤務時間調整や常勤採用が必要な薬局もあります。
重要なのは、採用を計画する前に現在の外来・在宅業務を含めた人的余力を確認することです。
Q5.在宅薬学総合体制加算2を取れば利益は増えますか
加算収入は増える可能性がありますが、取得・維持のための人員や体制整備に追加費用が必要なら、利益が同じだけ増えるとは限りません。
加算は在宅事業全体の収益の一部として考えます。
Q6.車は必ず必要ですか
地域や訪問距離によります。
都市部では徒歩・自転車等を含む別の移動手段が可能な場合もあります。
必要なのは、対象地域で安全かつ継続的に訪問できる移動手段を確保することです。
Q7.在宅拡大は資金繰りを悪化させることがありますか
あります。
患者数が増える前に人件費・設備費等が先行した場合や、事業拡大で在庫・未収金が増えた場合は、一時的に資金需要が増える可能性があります。
Q8.加算を取らなくても在宅を拡大する意味はありますか
個別の採算性によります。
在宅関連の収入は加算だけではありません。
加算がなくても部門として採算が合い、地域の患者受入れや収益源分散に意味がある場合があります。
Q9.在宅に強い薬局をM&Aすれば、その売上は維持できますか
自動的に維持されるとは限りません。
在宅担当薬剤師、連携先、患者構成、施設依存、届出・人員体制等が変われば、収益が変動する可能性があります。
Q10.在宅事業が赤字なら撤退すべきですか
赤字の原因によります。
立上がり途中で患者数が少ないのか、人員・移動コストが構造的に重いのかで判断は異なります。
改善可能性、撤退費用、地域での役割等を確認します。
Q11.外来中心の既存薬局と、在宅業務の比重が高い薬局では考え方が違いますか
違います。
既存外来薬局が在宅を追加する場合は既存人員・設備を活用できる可能性がある一方、外来業務への影響があります。
在宅比重が高い薬局では、訪問密度、人員、連携先集中などがより直接的に収益性へ影響します。
Q12.在宅拡大に必要な融資額はどのように考えますか
人件費、採用費、設備投資、立上がり期間の運転資金等を対象薬局ごとに確認します。
最終的な融資額・条件は金融機関が判断します。
Q13.金融機関はどの数字を最も重視すべきですか
一つの数字だけでは判断できません。
在宅売上、追加人件費、部門利益、現預金、返済後の資金余力を一連で見ることが重要です。
Q14.どの段階で専門的な検証を検討すべきですか
在宅拡大が返済計画の重要な前提になっている、追加採用が必要、一施設への依存が高い、制度上の加算前提が大きい、M&A後の収益継続性が重要といった場合は、早期に専門的な検証を行う意義があります。
Q15.在宅患者が増えれば薬剤師1人当たりの生産性も上がりますか
必ずしも上がりません。
患者数が増えて訪問ルートが効率化する場合もありますが、遠距離訪問や時間外対応が増えれば、1人当たりの業務負担が大きくなることがあります。
患者数だけでなく、訪問密度と人員負荷を合わせて確認します。
Q16.施設から大口の依頼が来た場合は積極的に受けるべきですか
採算性だけでなく集中リスクを確認します。
一度に多数の患者を受けられることは効率面のメリットになる可能性がありますが、その施設が在宅売上の大半を占める場合は、関係変更時の影響も大きくなります。
Q17.在宅拡大のために先に人を採用するのは危険ですか
必ずしも危険ではありません。
患者受入れの具体的な見通しがあり、採用前に必要な資金余力を確保している場合は合理的な先行投資になり得ます。
一方、需要の根拠が弱いまま固定費だけ増やす計画には注意が必要です。
Q18.在宅業務の採算は店舗別に見るべきですか
複数店舗を運営している場合は有用です。
店舗によって人員余力、訪問エリア、患者構成、連携先が異なるため、全社平均だけでは在宅拡大に適した店舗が分からないことがあります。
在宅拡大の目的は売上を増やすことではなく、返済力を高めること
在宅業務は、調剤薬局にとって重要な事業領域です。
2025年には厚生労働省の検討会で在宅医療における薬剤提供のあり方が取りまとめられ、2026年度調剤報酬改定でも在宅薬局機能の評価が見直されています。
しかし、金融機関の立場から見れば、在宅に積極的であること自体を評価するのではありません。
確認したいのは、
在宅拡大によって生み出される利益・キャッシュフローが、追加投資や人件費を上回り、結果として返済力を高めるか
という点です。
そのためには、
患者受入れの根拠
個人宅・施設の構成
訪問距離
人員余力
採用計画
加算等の前提
追加費用
立上がり期間
下振れ耐性
返済後現預金
を一つの経営計画として見る必要があります。
既存人員や既存設備に余力があり、患者受入れ経路も明確な薬局であれば、在宅拡大は収益力を高める可能性があります。
一方、患者受入れより先に固定費が増える計画や、採用成功・加算取得・特定施設の継続など複数の前提がそろわなければ成立しない計画では、資金繰りへの影響を慎重に確認する必要があります。
在宅患者数や加算点数だけではなく、収益性、人員体制、訪問効率、下振れ耐性、最終的な返済力まで見ること。
これが、調剤薬局の在宅拡大を評価するうえで重要な視点です。
金融機関・専門家の皆様へ
調剤薬局の在宅拡大について、
患者受入れ計画の根拠が十分か
個人宅・施設の構成を踏まえて採算が合うか
追加採用を織り込んでも収益性が改善するか
訪問距離・移動負担を含めた計画になっているか
加算等の制度前提を含めて収益計画が妥当か
患者受入れや採用が遅れた場合でも返済可能か
M&A後も在宅事業を安定して継続できるか
といった判断が必要な案件は、MKマネジメントへご相談ください。
医療・介護制度、人的資本、店舗損益、資金繰りを横断し、金融機関が返済力を評価するための論点を整理します。
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主な参考資料
免責事項
本記事は、2026年8月時点で公表されている資料に基づく一般的な情報提供を目的としています。個別薬局の診療報酬・調剤報酬上の算定可否、融資可否、投資採算を確定するものではありません。
記事中の収益・費用に関する説明は、個別薬局の経営判断の考え方を示すものであり、全国共通の損益分岐点や適正患者数を示すものではありません。
実際の判断では、対象薬局の届出資料、レセプト、患者構成、勤務体制、訪問エリア、会計資料、資金繰り、借入返済予定等に基づく個別検証が必要です。
執筆者:MKマネジメント代表 小坂 真義(中小企業診断士・薬剤師)